手当たり次第に、私はダンテを探した
まだ、彼らが闘っていない事を祈りながら


『あの二人がもう一度ぶつかれば、確実にどちらかは死ぬと言う事だけ』


彼女の言葉は、すなわち彼らが一方を斬りつける、という事
血の分けた兄弟同士で、殺し合う
それを今さら理解した私を、自分で殴りたかった


『こうなった以上、俺はアイツを倒す』


ダンテの、その言葉にどれだけの重みと決意があったのか
自分のことでいっぱいいっぱいになっていた私は、それを汲み取れなかった
それどころか、彼は私のことまでをも考えていてくれたというのに

ダンテが負けるなんて事。それは逆も然りで
ほぼ互角の強さである彼らの決着は、何も知らない私には到底想像ができない

そして、バージルも同様に
あの時再会した際には、私のこともダンテのこともまるで分かっていなかった
だけれども

私の流した涙に触れた時の、尋常じゃない苦しんだ様子
そしてチラリとだけ見えた、彼の胸元に光っていたのは
確かに、彼ら双子だけが持つ母親の形見だった
それはまだバージルの中に、昔の彼が残っている証拠だと、私は信じたい

数年前の、テメンニグルでの決闘とは訳が違う
この決闘で片方がもう片方を殺してしまえば、必ず心に傷を負う
それも、深い深い、二度と消えないであろう傷を


「そんな事……させる訳にはいかない!」


脳裏に浮んでは消えるのは、バージルの薄い微笑み
テメンニグルを降りる時にしてくれた、優しい口づけ
そして、この数年ずっと隣にいてくれたダンテだった


長い回路を走り抜けようとした時、不意に聞こえてきたのは金属がぶつかり合う音
微かにだけれどもその音に混じって私の耳に届いたのは
今は聞こえる筈のない、バージルの苦しそうな声

私は、その音の方へと足を向ける
見落としていたもう一方の回路を行くと、そこには大きな両開きの扉が
鍵なのだろうか、扉の中心には無職透明の液体が入った玉石が埋め込まれていた
その扉の向こうからは、金属のぶつかり合う音が先程よりも大きく聞こえてくる
一度だけ息を落として、私はその扉を開け放つ

そこにあったのは
見覚えのある透明で碧い無数の剣と、苦戦を強いられているダンテ
そして、仮面を外したバージル


「……何も、変わってないんだね」


小さく呟いた声は、二人には届かない
きっと、私がこの部屋に入った事にすら気づいていないのだろう
それでいい

久しぶりに、本当に長い間忘れもしなかった人がそこにいる
オールバックにした銀髪。私の大好きだったアイスブルーの瞳は、色も変わり輝きも失っていたけれど
確かにやっぱり、私の愛したバージルだった


「ぐっ……!」


ダンテの鳩尾に入った一撃で、彼が膝をつく
それが最大のチャンスかのようにバージルは、大きく剣を振り上げた


「っ……!」

!?」


ダンテの前に立った私は、当たり前のようにバージルの一撃を、この身に受ける
背中をダンテに、剣を振り下ろしたバージルには顔を向けて
焼けるような痛みが体全体を襲う


「こうするしか……私には、思い、浮ばなかったから……」


走り出す寸前に握った碧い幻影剣を、鎧の隙間に突き刺した
急に出現した私に動揺したのだろう、彼は刺されるまで少しも動かなくて
刺された瞬間に、その無表情が少しだけ歪んだ


「ご、めんねっ……?」


弱い私は、こうするしかなかった

幻影剣を深く突き刺す為に、私はバージルの懐へと
最後の力を振り絞って飛び込む

おかしいとは、思った
たとえ致命傷となる傷を負っても、バージルは悪魔の血を受け継いでいる
私をそのまま、絶命させる事も出来た筈なのに
彼は一切、抵抗をしない

がしゃん、と大きな音がした


「……


聞こえてきたのは、彼の声
ずっと、私が探し求め続けてきた
バージルの声


「……バー、ジル?」

「す、まない……」


顔を上げた私が見たのは、ブルーの瞳


「バージル、だ……私の、愛した……」


もう一度、彼の名前を呼ぼうとしたけれど
私の命の火は、そこまで持ってはくれないようで
だんだんと、瞼が落ちてくるのを、彼の腕の中で感じた





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