ダンテはただ、目の前の出来事を眺める事しかできずにいた

鳩尾に重い一撃を喰らい、膝をついたその時彼の横を何かが過ぎった
そして、受けたのは痛みではなく影
顔を上げれば、そこにいたのは


!?」

「こうするしか……私には、思い、浮ばなかったから……」


表情が見えなくても、その命が尽きる事はダンテにも分かった
彼女は、ダンテを庇いその手に持った幻影剣でバージルを突き刺す
そしてより深く剣を刺し込む為に、はバージルの懐へ

その時、彼女には見えていなかったバージルの表情

バージルの変わってしまった瞳の色が、徐々に彼らの知る色へと戻っていき
全くの無機質だった顔が、苦悶の表情へと移り変わっていく

バージル――ネロ・アンジェロ――の手から、剣が落ちた
彼は自分の懐で、今にも消えそうな魂の灯を見下ろす


「……

「……バー、ジル?」

「す、まない……」


バージルの声に顔を上げたは、一瞬だけ驚愕の表情に
しかし、すぐに嬉しそうに笑うとポツリと呟く


「…バージル、だ……私の、愛した……」


そこで彼女の音声は途切れ、そのままバージルの懐に納まる
ダンテの目に写ったのは、ダラリと垂れ下がったの白い腕だった

ゆっくりと、バージルの膝がダンテと同じように地面へと着陸した
その腕には今しがた息を引き取った、彼の愛おしい女がいる
彼の腹部には刺さったままの幻影剣
バージルはそれを抜き取ると床へと捨て投げ、己と彼女の血で塗れた手の平をの頬に手を運んだ


「……。約束を、守れずに……すまなかった」

「バージル……」

「ダンテ」


ダンテは、かつての兄に戻ったその名を呼ぶ
呼ばれた彼は、何も言わずにただ弟の顔を見た
そして、一瞬だけ。本当にほんの一瞬だけ、薄く微笑むとその頭をガクリと項垂れさせ息を潜めた

完全にバージルの呼吸が止まると、目を潰さんばかりの光が辺りを走る
ダンテが刹那瞼を下ろすと、その場に残ったのは
彼らの母親の形見である、アミュレットだけ
それは、魔界に落ちる時でさえ離さなかったバージルの物

ダンテは残ったアミュレットを握り締め
今はいない兄と、そして想いを告げる事のできなかった愛した女を
少しだけ思い浮かべた







バージルの声がした
振り向けば、そこには私に笑ってくれている彼がいて
差し出された手の平を握り返す


「やっと、約束を果たせたな」

「そうだね」

「もう、お前の傍を離れないと誓う」

「……う、ん」


泣き出してしまった私を、あやすように彼は抱き締めてくれる
ずっと待ち望んだ、当たり前の事
ようやく取り戻した温もり


「愛してるよ、バージル」

「俺も、だけを愛してる」


もう二度と離れないと、誓ったから
重ねた唇から広がるこの想いだけを持って
二人で、あの空を渡る









you're only