どことなく雰囲気がテメンニグル似た、この島の建物を
私はあてもなく歩き続けた

時々出くわす悪魔達に怯む事もなく
ただ、変わり果ててしまったバージルだけを求めて

だけど、私が彼に出会える事はなかった


もしかしたら、もうどこかでダンテと闘っているのかもしれない
いや、それ以前に
思うだけで身震いをする

聞こえてくるのは、異形の者達の咆哮だけ
それすら、彼を失った時を思い出させる

いっそ、出会わなければ、こんな辛い思いもしなかっただろうに
自嘲気味に漏れた笑いがいつしかまた嗚咽に変わっていく


バージルを失ってから、ずっと膝を抱えたままだった
残された感情は悲しみだけで。あのキラキラとした感情は、ごっそりと彼と共に失ってしまった
まるで、魔界に彼と一緒に落ちていってしまったように

だからこそ、彼らの母親と似た彼女を見た時は
ひどく狼狽したけれども、同時に失くした感情をも湧き上がったのに
もしかしたら、もう一度バージルに会えるのかもしれない、と
それすらも打ち砕かれた今、私は何の為に生きているのか
いっそ、抵抗する事なく悪魔達に殺されてしまえば


「元気がないわね」


何の気配も感じなかった背後から、そう声をかけられる
振り返って見れば、そこにいるのはトリッシュと名乗った女がいた


「まあ、初めて会った時からもう死人のようだったけれど」

「……そう、かもしれない」


何も持たずに、その日暮らしの私があの日、偶然に迷い込んだテメンニグル
そこで私は悪魔に襲われ、死ぬ筈だった

初めて見た、悪魔。ただの人間でしかなかった私は、それに怯え死ぬ筈だった。あの瞬間
舞い降りたのは力を求めた半魔

きっと、最初はただの気まぐれだったんだ


『ありがとう、ございます』

『貴様は俺が怖くないのか?』

『……どうして、助けれてくれた人を怖がらなくちゃいけないの?』


単純に、美しいと思った

月光を背にして、凛と立つその姿が
精練された顔つきは青白く、そこに塗られた赤が
何よりも、憂いを帯びたアイスブルーの瞳


『ついて行ってもいい?』

『お前のような人間が共に来たところで、何も楽しい事などはないぞ』

『別に構わないよ。今の生活だって何の楽しみもないし……それに、いざとなったらバージルの盾にしてくれていいから』

『……何を』

『だってバージルに助けられた命だから。バージルの好きなように使って』


何の未練もないそれまでの生活
そこに戻るくらいなら、この人の傍にいたい
それが、あの時から私の唯一になった


「彼は、あなたにとって大切な人だったようね」

「……ダンテのこと?」

「違うわ」


その否定の言葉の続きを聞かなくても、誰のことを言っているのか一瞬で分かった


「何か知ってるの?」

「さあ? だけどこれだけは言えるわ。あの二人がもう一度ぶつかれば、確実にどちらかは死ぬという事だけ」


残酷な響きを持ったトリッシュの言葉は、私に眩暈をもたらす
彼女は、何かを知っている。だけれどもそれを今聞いたところできっと、何も変わらない

そして、もう一つ
彼女が口にした事で決定的になった事

私は歩き疲れた脚に鞭を打ち、走り出した





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