戦火の中で、ふたりの時間は穏やかなもので
変わらぬ日々こそが、幸せなのだと思うように
ジェイクとは共に過ごす時間を、共有していた

ジェイクは一度、シェリーにの存在をちらりと話した事がある
シェリーは驚愕したものの、ジェイクのゆるやかな変化に喜んだ
「大切にしなきゃダメよ」との彼女の言葉に
ジェイクはどこか寂しいものを覚えつつも、同意したのだった


朝、目を覚ますと隣にある体温に、安心する
同じメニューのようで、違うそれに気づいたり
それをぶっきらぼうな言葉で、分かりづらく褒めるとはにかむ
いつの間にか、昼の弁当まで持たされるようになって

生を実感するためなら、危険も顧みなかったけれど
彼女が待っていると思うと、なるべくそれを冒さないようになった
同時に、相手にも待っている人間がいるのかもしれない、と思うと
命を奪う事に躊躇いが生じるようになった

一緒に帰る日は、ショップの前に着くと、すぐには中に入らず
外から彼女の働きぶりを見るようになった
分け隔てなく振りまかれる笑顔が、自分のと少し違う事に気がついた
それが嬉しくて、にやける口元を隠して迎えに行く
先に彼女が家に帰っている時は、必ず扉の前まで出迎えてくれる

食べたいものを言えば、大抵は作ってくれる
分からなくてもレシピをわざわざ調べて、出してくれるのだ
さすがにバスタイムは別々だけれども、出てくれば笑顔で迎えられる
そうして一日の終わりを、同じベッドで閉じる


些細なようで、宝物のような日を過ごしていくうちに
ジェイクの気持ちは小さなものから、どんどんと膨れ上がっていった
それを決して表に出す事はなかったけれど
自分の隣にいる事、自分を待ってくれている事が、当たり前になっていった

それはも同じようで、特別な笑顔はますます増えて
彼女にとっても、かけがえのない日々になっていた




ジェイクが風呂からあがると、雑誌を読んでいた顔が破顔し向けられる
タオルで頭をがしがしと乾かしながら、彼はの後ろに回った

自分より小さな背中、揺れる髪、雑誌を捲る指先
彼女を形成する全てが愛おしくて、眩暈がする程

気がつけば、そっとその体を腕の中に閉じ込めていた


「ジェイク?」

「……振り返るなよ」


湯上りのせいじゃない。心臓がどくどくとうるさく騒ぎ出す
頬に集まる熱を構う事なく、ジェイクは言葉を続けた


「俺は、絶対にお前の傍から離れねえ」

「うん」

「――すき、だ」


の体が強張る
刹那、小さく小刻みに震えだす
ジェイクは慌てて顔を見ようとするが、が振り返り抱きついてきたため、それは叶わなかった


「私も、ジェイクが好きだよ」


それは、二度目の涙声だった
ジェイクは目を見開き、それから驚く程穏やかな笑みを浮かべる

少し体を離し、の頬に唇を落とす
今度は彼女が目を見張った
離れて目を合わせると、ジェイクはその視線を逸らした


「ねえ、もう一回、して?」

「嫌だ」

「ええ! どうして?」

「恥ずかしいだろ」


そう返すジェイクに、は何度も頬へのキスを強請る
嫌だ、を繰り返す彼に、お願い、と返事をする
何回そのやり取りをしたか分からない

何回目か、ジェイクが返事をしなくなる
首を傾げる

不意をついて、唇を重ねた
一瞬でそれは離れたけれど、確かにそこには体温が残っていて
潤んだ瞳で、はジェイクを見つめた
観念したように、彼も視線を合わせた

どちらともなく、額を合わせて
微笑みあうふたりの目には、それぞれ互いが映り込んでいた





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