風呂を済ませ、他愛もない時間を過ごし、共にベッドに入った
背中合わせではなく、ふたりとも天井を見上げている
静かに呼吸をする音が耳に届いた


「もう寝ちゃった?」

「いや」

「……あのね」


ひとつ、息を吸ってが言葉を紡いだ


「私、家族がいないって言ったでしょ」

「おう」

「本当はひとりだけいたの」


がこれから何を言おうとしているのか、ジェイクには分からなかった
ただ、ひどく思いつめていて、それを吐き出そうとしているのは、感じ取れた
それを自分が聞いていいのか。まだたった三日しか一緒にいないのに
けれども、彼女は彼に聞いてほしいようで、続きを話し始める


「すごく大切な人だった。その人も私を大切にしてくれた」

「……それで?」

「幸せだった、ずっとその人と暮らしていくんだろうって思ってた」


言葉が止まり、空気が震える
ジェイクの聞いた事のない声が、細く吐き出されて
それは、が涙を流している事を教えるものだった


「でも、いなくなっちゃった。私を置いて、遠い所にいっちゃった……」


ジェイクが顔を横に向けると、幼子のように泣くの姿が目に入った
嗚咽を隠す事なく、悲痛な声が部屋に響く

何を言うでもなければ、何を言えばいいかも彼は分からなくて
そっと、の頭を撫でる
一瞬、嗚咽が止まるが、それが完全に止まる事はなかった
少しためらいがちに、ジェイクがを腕の中に引き寄せる

腕の中で、泣き続けるの背中を、ジェイクの手の平が行き来する
その手はガラス細工に触れるかのようで
はジェイクに抱かれたまま、泣き続けた


どれくらい泣いたのか分からないが、次第に声が弱くなり
鼻をすする音がした


「……急に泣いて、ごめんね」

「別に」

「ありがとう」


顔を上げ、その頬にそっと唇を寄せた
ジェイクは勢いよくを見る
暗闇でも分かる程、目を腫らしているけれども、確かには笑っていた
どこか、今にも崩れてしまいそうな、笑顔で


「……無理、するんじゃねえよ」

「え……」

「俺はまだお前のことよく分かんねえけど、今の笑った顔が無理矢理だってのは分かる」


驚いたのはの方で

彼女はジェイクの胸に当てている手を見て、それからそっとそこに頬を触れさせる
瞬きをすると、瞳からはふたたび涙が落ちた


「ねえジェイク」

「あ?」

「傍に、いてくれる?」


の全てが震えていて、ジェイクが気の毒に思ってしまう程で
小さく、居場所を求めるに、ジェイクは思案する

最初は強い人間だと思った
けれども本当は脆そうで壊れてしまいそうで
よく笑い、こんな自分にまっすぐな好意を向けてくる
人と過ごす時間が、尊いものだと教えてくれた

まだほんの少ししか、隣にいないのに
こんなにも心をくすぐる


「――ああ」

「ほんとう?」

「どうせ嫌だって言ってもいるんだろ」


素直な言葉はやっぱり言えなくて
それでもは、今度こそ嬉しそうに笑って、彼を見上げた
答える代りにジェイクは、腕に力を込める





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