ジェイクは傷だらけになって、ディスカウントショップの前にバイクを止めた
外から中の様子を、ガラス越しに窺えばがレジで接客をしていた
笑顔でお釣りと品物を渡す
客を出口まで見送ると、ジェイクに気がつく

その顔が、花が咲くように、春の訪れを喜ぶように綻んだ
けれどもボロボロの状態に気がつくと、慌てて彼を店の中へと入れる


「すごい痛そうな傷があるけど、大丈夫?」

「こんなの大した事ねえ」

「今救急箱借りてくるから」


別にいい、の答えを聞く前に、は店主に救急箱の場所を尋ねていた
ジェイクは近くにあった椅子に適当に腰かけ、を待つ
救急箱を持ってすぐに戻ってきたは、手際よく消毒の用意をする


「痛かったら、言ってね」


頬の切り傷やかすり傷、銃弾がかすった腕、打撲した足には湿布を貼った
今にも雨が降りそうな表情で、消毒や手当をしていく
それがくすぐったくて、ジェイクは彼女の顔を見れなかった

全ての手当てが終わると、ようやく息を吐き安心したように笑う
ゴミを片付け、救急箱を元の場所に戻す


「こんなのいつもの事だぜ?」

「それでも心配するよ」

「毎回心配すんのかよ。そんなんじゃもたねえぞ」

「うん、毎回する。でも大丈夫、ジェイクは帰ってくるって信じてるから」


膝の上の手を握られる。驚いてジェイクがの顔を見れば
唇がきれいに弧を描いていた
その顔に、自分は弱いのだと、熱くなる頬を隠してジェイクは思った
さらに店主から「お熱いね、おふたりさん」と言われ、頬はますます熱くなる
もなんだか居心地が悪そうに、苦笑いを零した


「帰るぞ」

「うん」


ふたりで店を後にした




家に着いて、ジェイクはソファに座り込む
はこれからも使うだろうと、買ってきた救急キットを片し、夕食の準備に取りかかった
今朝ジェイクがリクエストした肉を使って、なにやら作っているようだ

テレビをつけるわけでもなく、雑誌を読むでもなく、ジェイクはただがたてる音を聞いていた
それは耳に快いものを届ける
幼い頃の、貧しくても幸せだった日々。そしてもうひとつ
今、自分はひとりではないという事

一緒に帰宅するか、家で自分を待っていてくれる人がいるという事は
こんなにも心の波を穏やかにするのだと。遠い昔に忘れてしまったような事で
ひとりじゃない、それがこんなにも幸せなものだったなんて


一時間もすると、夕食が出来上がっていた
ステーキに色とりどりの野菜が添えられていて、食欲をそそる
黄金色に輝くコンソメスープに、バケットとカットされた林檎もある
ふたり揃って、いただきます、と食事を始めた


「おいしい?」

「ああ」

「よかった」


そう言って、も肉を口に運ぶ
開いた口の中に見える小粒の白い歯、口の端についたグレイビーを舐めとる、赤い舌
それはジェイクに、あられもない事を連想させて
水を飲んでいた彼は盛大に咽た


「大丈夫?」

「……げほっ、ああ、っ」


覗き込むに見られまいと、彼女の前で手を振る
まだ咳が続く彼の横に立ち、背を擦る
その手がやわらかくやさしくて、離れてほしくない、と思ってしまう程で





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