二度目の食事は、余ったトマトソースのかかった魚のグリルだった
また違ったサラダに、ポタージュ、バケットが並んでいる
荷物を適当に放り投げて、テーブルに着く
いただきますの声が揃って、は笑った


「あのお店でなんとか雇ってもらえたんだ」

「ふーん」

「ジェイクは今日どうだった?」

「別に」


変わらない素っ気のない返事にも、はニコニコとしている
魚をつつきながら、ジェイクは次の言葉を待つ


「そう言えば、この国にはどのくらいいるつもりなの?」

「さあな。戦況と報酬次第だ」


お前はどうすんだよ、と聞けば、どうしようかな、とフォークを口に運ぶ
少し考えて、は「ジェイクと同じくらいかな」と曖昧に答えた

そもそも、彼女の目的は一体なんなのだろう、とジェイクは思った
放浪と言われたが、この国にわざわざ訪れてまで見るような所は皆無だ


「お前は一体、何が目的でこの国に来たんだ?」


ジェイクの言葉に、の手が止まる
視線が宙を泳いで皿の上の魚に移った
あー、うー、と何かを考えあぐねいている様子は、分かりやすかった
ジェイクは探るような目で、彼女を見つめる


「……したい事があって」

「なんだよ」

「それはちょっと、まだ言えないかなー……なんて」


苦笑いをするを一瞥して、バケットをちぎる


「……言いたくないなら、これ以上聞かねえよ」

「ありがとう」


安心したように微笑む。が、ジェイクの次の言葉にまたは固まった


「お前、家族とかは?」

「……いない、よ」


重い沈黙。彼女は変わらず苦笑いの表情
聞かれたくない事、踏み入られたくない部分くらい、誰にでもあるだろう、と
ジェイクはそれ以上の追及しなかった
それを感じ取ったのか、も苦笑いをやめてうっすらと笑う


「ジェイクは、優しいね」

「どこがだよ」

「なんだかんだ、私を受け入れてくれたりするし、こうしてテリトリーに踏み込んだりしないし」


は小さくしたバケットを口に投げて、咀嚼する
褒められたジェイクは居心地が悪くて、レタスに勢いよくフォークをさした
ボウルの中にあるプチトマト程ではないが、頬に熱があるのは分かった

彼女は、自分をかいかぶりすぎているような気がする、とジェイクは思った
それとも、自分では気がつかないが、本当に彼女の言う通りなのかもしれない、と
明らかに彼女は、自分に好意―それはおそらく人としてのだけれど―を持っている
それがどこかくすぐったくて、でも、温かくて


「私、週に三日くらい休みがあるんだって」

「俺はあってないようなもんだぞ」

「行く所なんてないから、家にいてもいいかな?」

「今更だろ」

「それもそうだね」


また沈黙が流れるが、決して悪い空気のものではなかった
やさしい、穏やかな静寂がふたりを包む

まだ、たった二日しかいないのに、ジェイクはのかもし出す雰囲気が気に入っていた
軽くしなやかで、まるで触り心地のいいタオルケットのような
春のひざしのようだと思った



次の日も、をディスカントショップで下して、戦地へと赴いた
「夕飯、なにがいい?」「肉」
そんなやり取りをして、別れた

昨日とうって変って、今日は戦闘の多い激しい一日だった
襲いかかってくる人間を容赦なく叩きのめしていく
油断をすれば、命取りになる戦場
なんのために戦っているのか。シェリーに出会うまでは、金のためだけで
でも今は、どこか違うものも抱いていた

生を、実感するのだ

死の瀬戸際、ギリギリのところで
それが、自分の生きている証拠でもあった
だからこそ、の持つ雰囲気にもどこか惹かれるものがあったのかもしれない、と
向かってきた敵に拳をめりこませながら、ジェイクは思った





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