朝、ジェイクが目を覚ますと、鼻腔に卵の焼ける匂いが届く
腕の中を見れば、もうそこにはの姿はなく
着替えてキッチンに立っている


「おはよう」


フライパンとフライ返しを手に、青空みたいな笑顔で朝の挨拶を
ジェイクはぶっきらぼうに「おう」と返しただけだった


「簡単なものだけど……朝食べる?」


返事の代わりに、後頭部をかきながら席に着いた
目の前の皿に、ベーコンエッグが盛られる
はシンクにフライパンを置くと、自分も座った


「いただきます」


まだ半分寝ぼけたままで。無意識に口にしていた言葉
それを聞き取った彼女は、嬉しそうに目を細める

トーストをかじる音、フォークのぶつかる音
瑞々しいサラダは、目に優しかった


「今日は仕事?」

「ああ」

「ついでにでいいんだけど、昨日寄ったショップに連れて行ってもらえる?」


店員募集のチラシが貼ってあったんだ。とトーストをかじりながら言う
分かった。とジェイクは返事をした


ジェイクが着替えを済ませ、ふたりは部屋を出た
施錠して、アパートメントの階段を下りる
ふたり分の足音が、なんだか懐かしく感じるジェイク
振り返れば、首を傾げるがいた
それが、あの日々のシェリーとかぶって


「帰りは何時になるか分かんねえから、自分で店からここまでの道覚えろよ」

「うん」


バイクに跨って、エンジンをかけ走り出した

ショップの前でを下せば、手を振ってジェイクを見送る
そのまま前を向き、スピードを上げた


***


傭兵のキャンプ地で、仲間とも呼べない同業者達と一緒に武器の整備をする
今日は比較的戦闘もなく、穏やかと言える日だった

あいつ、今頃何やってんだろうな

ナイフを磨きながら、ジェイクは思った
うまく店には雇ってもらえたのか、仕事はできているのだろうか
なんでこんなに心配なのだろうか

それは、彼女の薄く纏う危うさにあった
飄々としていて、どこか世捨て人の雰囲気がある彼女は
気がつけば、死んでいた、なんて事がありそうで
ただでさえ治安がいいとは言えないこの地域で、のらりくらりとしているのを見ると
そう思ってしまうのだ

放っておけない

また厄介な事、抱えこんじまった。そう溜め息を吐いた


***


ジェイクが帰路についた頃にはもう、辺りは暗闇に支配されていた
一応、ショップの前に寄って中を覗いたが、の姿はなく
そのまま自分のアパートメントまで帰宅した

階段を上り、自分の部屋を見る
窓から、光が漏れている
おとといまでの自分なら警戒するところだが、今日は違う
誰かが、自分の帰りを待っていてくれる
そんな事が、むずがゆい感情を運んできた

扉を開ける


「ジェイク、おかえり!」


花が咲くような笑顔で出迎えられて、むずがゆさは分かるくらいの感情になった
淡い幸福感が、ジェイクの胸に灯る





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