夜も更けた頃、狭いシングルベッドにふたりが背中合わせに並んでいた
ジェイクの部屋には一人がけのソファしかなく、他に寝床がなかった
は床で寝ると言ったが、さすがのジェイクもそれを許すわけにもいかず
結局、こうするしかなかった


遠くで聞こえる喧噪の音と、背中から伝わる規則正しい心音
誰かとこうしてベッドに入る事なんて、幼い頃以来なくて
しかもそれが出会ったばかりの異性となれば、否応なしに気になってしまうのが心か

小さな呼吸音が聞こえる。ジェイクは彼女が寝たのかと振り返る
するともジェイクの方を向いていた
バチリと合う視線。逸らすのも癪なジェイクは、そのまま黙ってのオニキスを眺めていた


「ジェイクの目、綺麗だね」


体ごと彼に向いて、は笑う


「空と海の色」


私なんてまっくろ。そう言って目を細める
向き直ったせいで、触れていた箇所が離れた
ジェイクは何も言わないまま、また前を向いた


「ねえ。ジェイクは家族、いる?」

「……死んじまった母親だけだ」

「――お父さんは?」

「知らねえ。母親にも聞いた事ないしな」

「そっか」


それから、おやすみ。と呟いてから少し経つと、呼吸音が寝息に変わった
もう一度顔だけで振り返り、ジェイクはの顔を眺めた

自分とは違う顔つき。やたらと視線をまっすぐ投げてくる瞳は、今は瞼の下。
小さく縮こまって、まるで子どもみたいに寝ている姿は、頼りなかった
そっと、気づかれないように彼女に向き合う

こうして同じベッドで眠るのは、いつだって母親だった
時には絵本を読み聞かせてくれて、その腕の中で安心して眠っていた記憶
その記憶に父親が存在する事はない


『ねえ、俺の父親って、どんな人だったの?』


幼い頃、母親に問い掛けた
彼女は少し困ったように笑ってから「とても強い人だったわ」と教えてくれた
いつか会えるか、という問いには、答えてくれなかった母親
今はその謂わんとしている事が、分かる

今更会いたいなんて思わない。でも、心のどこかで求めてしまう
もう会えないと分かっているのに
ちらつく自分とは違う髪色。漆黒に隠された瞳の奥
――聞きたい事は、山ほどあったのに――

そんな事を考えていると、不意に腹の辺りを掴まれる
見れば、の手がジェイクのシャツを握っていた
辿っていけば、少し不安そうに眉根を寄せた顔が目に入った

俺に、どうしろってんだよ

無下に払う事もできなくて、でもそのままだとなんだか少し可哀相な気もして
そっと、まるまる彼女の体を引き寄せた

一瞬、身じろぐもシャツを握る手は離れない
それよりも、嬉しそうにジェイクの胸元に頬をすり寄せる
その反応に、彼の心臓がこころなしか早くなった

よく見知らぬ男に、こうも無防備でいられる
襲われたって文句は言えない

つくづく不思議な奴、だと思った
どこかコケティッシュな雰囲気を持つのに、今にも壊れてしまいそうな脆さもどこかにあって
それなのに、あのまっすぐとした眼差しは、背筋に何かを走らせる


「よく分かんねえ奴」


その言葉と共に吐き出された、なんとも言えないジェイクの溜め息が部屋に溶けていった






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