バイクの後ろに女を乗せて、ジェイクは帰宅した
エンジンを止め、女が下りた事を確認し彼も下りる
先程のショップで買った荷物をシートから取り出し、アパートメントの階段を登った
ジェイクの後ろを、ひょこひょこと女が着いてきた
ジャケットのポケットから鍵を取り、扉の鍵を開ける

「お邪魔します」

無言で帰宅したジェイクの後に、一言入れて女が家に入る
部屋はそれ程広くなく、必要最低限の物だけが置かれていた
ベッドにソファ、ローテーブルに冷蔵庫。床に散らばった衣服に、簡素なキッチン
キョロキョロと辺りを見回す女を放っておき、冷蔵庫に買ってきた物を投げ込むジェイク
女は慌ててボストンバッグを床に置き、冷蔵庫とジェイクに近づいた

「片づけは私がするよ。そのままキッチンも借りるね?」

「あっそ」

荷物の残りをそう言う女に預け、どかっとソファに座った
さして何も気にしていない風を装いながら、ジェイクは胸中に色々な思考を巡らせていた
決して自分も「いい人」には見えない筈なのに。女はなんの抵抗もなく、自分について来たいと言った
何か企んでいるのかと思ったが、今のところ、そんな雰囲気はない
一体、何が、目的なのか

そうこう考えているうちに、気がつけば女は野菜を切り始めていた
調理器具なんてない、と言えば女はショップで器具も買っていた
食材の代金も、女が出した。「お礼だもん」と言って
買ったばかりのまな板からする、軽やかな音がジェイクの耳に届く

その音が久しくて、ジェイクの脳裏に貧しいながらも幸せだった日々が蘇る
母親がまだ生きていた頃、こうして食事を作ってくれていた事
ひとりで、適当な物しか食べなくなって、どれくらいか
ちらりと女の様子を窺えば、楽しそうに鼻歌を歌いながらリズミカルに包丁を動かしている
いつ、その包丁が飛んできてもいいよう、ジェイクは警戒していた


「ねえ、お兄さんはずっと一人暮らし?」

「そうだけど」

「そっか」


鍋に湯を沸かしながら、女が問いかける


「そう言えば、名前言ってなかったね」

「そうだな」

「私は。お兄さんは?」

「……ジェイクだ」

「ジェイク、ね」


噛み締めるように女がジェイクの名を呟く
珍しくもない名前なのだが、とジェイクは不思議に思うが特に聞く事もせず、黙っていた
すると、また女−−は口を開いた


「仕事は? 何してるの?」

「傭兵」

「へー。だからあんなに強かったんだね」


感心したような口振りで女は言った
ジェイクは内心しらじらしい事を、と思っていた


「そう言うお前は」

「お前じゃないよ、

「……は、何やってんだ?」

「うーん、放浪?」


クスクスと笑いながら、沸いた湯にパスタを入れる
フライパンにはいい匂いのするトマトソースが湯気を立てていた





NEXT