を追い出してから、数日が経った
木陰で休息を取っているジェイクに、あの日の男が近づいた


「あの女はどこに行った」


ジェイクは、この男のせいで今の状況になったのだと、逆恨みにも似た感情を抱いた
それは無視をするという行動に出て現れる


「あくまで言わないつもりか」

「……どこ行ったかなんて、知らねえよ」


男の顔を見ていたくなくて、向きを変える
去った気配はせず、男はふたたび言葉を紡いだ


「我々は彼女を保護する目的で探している」

「保護?」

「ああ。彼女の体には、未知のウィルスが眠っている。それを狙う組織なんぞごまんとあるからな」


男の言葉に、ジェイクは体を起こした
言葉の意味する事が分かるからだ

中国でされてきた事を、思い出す
がその組織とやらに捕まった時、へたをすればそれ以上の事をされるのではないかと
ドクドクと、ジェイクの心臓が異常な速さで血液を送り出す

あの笑顔が、もう二度と見られなくなるかもしれない

男は、これ以上ジェイクから情報が引き出せないと分かり、その場を去っていった
残された彼は、その場で蹲ってしまう

裏切られたと、そう頭に血が昇ってしまい、何も聞かずに追い出してしまった
今、どこで何をしているのか。もしかしたら、もう組織とやらに捕まってしまったのかもしれない


を、探す


その答えがジェイクの中で導き出された時、彼は立ち上がった
けれどもそれを遮るように、彼の雇い主が敵の襲撃を告げる
そちらの方を見れば、確かに武装した集団がこちらに向かってくるのが見えた
どうして、こうもタイミングが悪いのか


武装集団は、以前よりも強力な武器でこちらを攻撃してきた
仲間の傭兵達はどんどん倒れていき、ジェイクもついに追い詰められる
引いては応戦し、それを繰り返す
廃墟の一角で、数人に囲まれる。それも、手負いの状態で

こんなところで、終わるわけにはいかないのに
に、聞きたい事も伝えたい事もある

二の腕から溢れる血液を抑えるために、反対の手の平で腕を強く握る
ひとりに多勢の余裕なのか、嫌な笑みを浮かべた敵はジェイクににじり寄る

こんな事になるなら、ちゃんとの話を聞いてやればよかった
たとえ父親の女だったとしても、自分を好きだと言ってくれた言葉は嘘にはどうしても思えなくて
後悔だけが、募っていく


ジェイクの耳元で、風が切れる音がした


敵のひとりが音もなく崩れ落ち、それに反応した他の人間も次々に倒れていく
ジェイクの目には、ありえないと言いたくなるような光景が映る
男達の合間を縫うように攻撃をしていたのは、どう見たって
初めて出会ったあの日と同じ目、凛とした表情だった

すとん、と彼女が地面に降り立つと、そこには敵全員がひれ伏していた
呆気に取られているジェイクに、駆け寄る


「ごめんねジェイク」


今にも泣きそうな、けれどもそれを必死に堪えている顔で


「私の顔なんて見たくもないって分かってる。でも、どうしても聞いてほしい事があるの」


とうとう、ぽろりと涙が零れ落ちた
彼に抱きつき、嗚咽を漏らす


「無事で、よかった……!」





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