冬の夜空は、空気がキンと澄み渡っていて、泣きたくなるくらい星が見える。
広い野原に建つこのお菓子の家の外で、温かいココアを飲みながら
隣には大切な人がいるこの瞬間を、幸せという以外、なんと言えばいいのだろう。

ふわふわの、タオル生地のような毛並みを撫でて、それから草の上に置いていたマグを取る。
両手を温めながら、ココアを飲む。吐く息は当たり前に白くて。
そっと、隣に寄りかかって、トリコの肩に頭を乗せる。


「どうした?」

「ううん、なんでもない」


青い髪が視界の上の方で揺れる。
冷たい風が吹く中、私の提案で星空観察を始めた。
寒いのに、文句も言わずに付き合ってくれる彼に、感謝だ。

体は大きくても、体温はほとんど一緒で、まるで溶け合うように頬で彼の体温を感じていた。
服越しに伝わる体温に、頬だけじゃなくて、心の中まで溶けそうなくらい温かくなる。

ココアの最後の一口を飲む。マグを草むらの上に置いて、冷えてしまった指先を、吐息で温めた。
少し赤くなっている指先は、まるで氷のように冷たい。

そっと、右手を取られる。
私の何倍も大きな手の平に、すっぽりと包まれる。
絡めた指先は、私と同じくらい冷たくて。


「どうしたの?」

「こうしてた方が温まるだろ?」


な? と握った手に、力を込められる。
きっと、トリコが本気の力を出して握ってしまったら、私の弱い手は粉々になってしまうだろう。
そうならないのは、彼が私のために、力をセーブしてくれているからで。
それが分かるから、とても嬉しくて、笑顔になってしまう。
寒さも、感じないくらいに。

濃紺の空、穴を開けたように輝く星達。この星の光は、遠い昔の物で、今はもう存在しない星なのかもしれない。
そう思うと、この星空をこうしてトリコの隣で見ていられる事が、本当に奇跡としか言いようがなくて。


「ねえトリコ」

「ん?」

「大好きだよ」


その奇跡の中で、想いが通じ合った事が何よりの奇跡のように感じられて、思わず口にしていた言葉。
普段は照れ臭くて言えないけれど、こういう時くらい、言ってもいいかな、と思った。

繋がれた手に、少しだけ力が籠った。


「オレものこと、すっげー好きだ」


飾られた言葉より、素直なその言葉が胸にすとんと落ちてくる。
瞬きをすれば、涙が零れそうで。それをごまかすために、上を向いて星を見た。


「あ、流れ星」

「どこだ?」

「もう消えちゃった」


一瞬の出来事で、お願いをする間もなかった。
それでも、光の尾に願ってしまう。

明日も明後日も、その先もずっとこうして、ふたりでいられれますように、と。
トリコの隣は私で、私の隣はトリコであって欲しい。

不意に星が見えなくなって、代わりに彼の顔が夜空の上に浮かんだ。
唇に体温を感じて、頬に熱が集まる。


「愛してる」

「……うん、私も」







冷えた指先を絡めて





Title by 瑠璃 「春夏秋冬の恋20題 冬の恋」