バレンタインデーの朝、家の扉をノックする音が響いた。
ちょうど朝食をとろうとしていたところだった。
はーい、と返事をしながら扉を開ければ、そこに立っていたのはカラフルな幼馴染。
「おはようサニー」
「……よう」
「朝ご飯食べた?」
「まだだし」
「ならご馳走するよ。大した物ないし美しくないけど」
それでもよかったら、と言えば軽く頷く。
彼の手を引っ張って、ダイニングの椅子に座らせる。
用意の途中だったサラダを手早く仕上げて、オムライスの準備を始める。
チキンライスは昨日の残りで、それを温め直した。
そう言えば、と、ある手法を思い出して試しにやってみようと考える。
「オムライス、食べられる?」
「朝からよくそんながっつり食べられるな」
「朝が大事なんだよ」
「……食べるし」
卵を割って、生クリームを加えて、バターを溶かしたフライパンに流し込む。
少し固まったところで、菜箸でドレープを作る。そう、まるでドレスみたいに。
それをそっと、チキンライスの上に乗せた。
頂点にトマトを乗せて、バジルを飾る。
崩れないようにそっと持ち上げて、サニーが待つテーブルに持って行った。
「……すげェな。踊り子のドレスみたいだし」
「あ、分かってくれた? この前テレビでやってたの真似してみた」
「真似してできるもんか?」
ふふ、と笑えばサニーも満足したように笑った。
私の分のオムライスも運んで、テーブルに着く。
ふたり分のいただきますが、部屋に響いた。
ほとんど食べ終えた頃、サニーが白い箱を出してきた。
ピンク色の光沢のあるリボンで包まれていて、一目見て綺麗だと思った。
「なあに、これ?」
「にやる」
「ああそっか、今日バレンタインデーだもんね」
「もしかして忘れてたのか?!」
「ううん。ちゃんとサニーの分も用意してあるよ」
箱を受け取って、断りを入れてから開封した。
中にはキラキラと輝くザッハトルテが入っていた。
さりげなく散らされた金粉に、下の方にホワイトチョコだろうか、文字が書いてある。
「Je t'adore……?」
「意味、分かんのか?」
「ううん」
「そ、そっか……」
安心したような、ちょっと残念そうな顔になる。
後でサニーが帰ったら、こっそり調べてみよう。
フォークを取りに行くついでに、冷蔵庫からサニーの分のチョコを出す。
それを後ろに隠して、席に戻った。
「じゃーん」
フォンダンショコラと、その隣に飴細工を出す。
ショコラは至って普通だけど、飴細工は気合の入りようが違う。
そのお蔭か、サニーの目がキラキラと輝きだす。
それが嬉しくって、飴細工を習いに行ってよかったと思った。
「すっげつくしい! どうしたんだし、これ!」
「ふふふ、実はサニーのために教室に通ったのだ」
「……レのため?」
「うん」
肯定の返事をすれば、サニーの顔が一瞬で茹で蛸状態になる。
何事かと近づこうとすると、触覚で体を抑えられた。
「み、見んなし! ばっ、前……!」
「どうしたの? 具合悪くなった?」
空中でばたばたする私と、顔を隠しているサニー。
でも見える耳とか、少しはみ出ている頬は真っ赤だ。
「もしかして、照れてる?」
「て、照れてねーし!」
キッと睨まれるけれど、顔が赤いままなので迫力がない。
「……せっかくだし、一緒に食べよう?」
「……おう」
そっと下ろされて、フォークを渡した。
もくもくと食べ進める私達は、なんだかおかしかった。
「美味しいね」
「そだな」
「飴細工も食べてね」
「もったいなくて、食べられねーし」
まだほんのり赤い頬のサニーを、穏やかな心で眺めていた。
Je t'adore(君が大好き)
Title by Fortune Fate「ValentineDay&WhiteDay 2」