人でごった返す名所、グルメタウン
今日はひとりで買い物に来た小松が、そこにはいた

「今日は何を見ようかなぁ……!」

目を輝かせた小松は、グルメデパートへと走って行った


お目当ての物の他、セールで安くなっていた品を大量に購入した小松は
フラフラと不安定に、たくさんの荷物を抱えてグルメタウンを歩いていた
視界を塞ぐ荷物の横に、ちらちらと人通りが見える
その誰もが何かを食し幸せそうな顔をしていた

「やっぱりここはいつ来てもいいな」

またトリコさんと一緒に来よう、そう思った矢先だった

正面から来た何かと、小松はぶつかってしまった
大量の荷物は道端に散らばり、小松自身も尻餅をついてしまう
慌ててぶつかったであろう場所に目を向ければ、立ち竦むひとりの女性

小松は彼女を見上げて、あわあわと謝り倒す
彼より遥かに高い長身を持つその女性は、腰を屈め荷物をひとつひとつ丁寧に拾い
それから小松に目を向けた

「大丈夫ですか? 申し訳ありません」

深々と頭を下げる女性に、小松は「こちらこそ、すみません!」と謝る
荷物をまとめ終わると、女性はそのほとんどを持ち上げた
え、と顔を見れば、薄く笑いそれから言う

「お詫びに、駅まで一緒に荷物を運ばせてください」

「え、え、ぶつかったのはボクですし、そんな、悪いですよ!」

「いえ、お気になさらず」

そう言ってスタスタと歩き出してしまう彼女の後を、急いで小松は追いかけた




駅に着くと、小松の荷物を席に置き、彼女は再び頭を下げた
それに対し小松も再度頭を下げ、眉を八の字にした

「ありがとうございました……本当に、助かりました」

「当然の事をしたまでです。……ああ、そう言えば」

すると女性は、鞄から何かを取り出す
それを小松に渡すと、にこりと笑った
彼が受け取ったそれは、何かのチケットだ

「よろしければ、これを」

「うわあ、これって……」

「つまらない物ですが、お詫びの品です」

「荷物まで運んでもらって、こんないい物まで頂いちゃっていいんですか?」

はい、と頷きくるりと踵を返した


「ああ、そう言えば名前を申し上げてませんでしたね」


長い黒髪が揺れ、彼女が振り返る


「申し遅れました、私シュウと申します」

「シュウさんですか。ボクは小松と言います」

「そちらで、副団長をやっております。いらした際にはぜひ、お声掛けください」


ええええ?! と驚き目を見開き叫んだ小松に、シュウはクスクスと笑うとその場を後にした

小松が握り締めているチケットは二枚、そこには「デリシャスマジカルサーカス団」と印字されている
VIP自由席とも書かれているそれは、市場に出れば一枚十万円は下らないだろう


小松はこのサーカス団を知っていた。そして、いつか行ってみたいとも思っていたのだ

デリシャスマジカルサーカス団。巷では有名な知る人ぞ知る、サーカス団
素晴らしいパフォーマンス、人間界では滅多に見られない珍しい猛獣たち
そしてサーカスの周りを囲むようにある出店は、どれも一流のレストランに負けない程美味しい
何よりも、演目の後に振る舞われるフルコースが絶品で
星をつけるのもおこがましいと言われる程なのだ

しかしその実態は謎に包まれている
団長を始め、団を構成する人物の詳細も語られる事はなく
猛獣たちもどこからやってきたのか、シェフは一体どんな人物なのか
一切が謎に溢れている

公演も定期的ではなく、連日公開している時もあれば、ぴたりと開催されなくなる時もある
チケットも一体どこで入手するのか分からないと言われていたのだ
それでも、一度公演があればいつでも満員御礼だという


「あの人が、サーカス団の副団長……」


よもや信じられない話だが、このチケットをそう易々と渡しているところを考えれば
それも頷ける話だった

「トリコさんを誘って行ってみよう!」

裏面には、今後のスケジュールが書かれていた
早速トリコに連絡を取り、小松は浮かれ顔で彼をサーカスへと誘った