年に一度の大切な日だから、たくさんの人を呼んで美味しい物をいっぱい作って、盛大に祝いたい。
招待する人のリストを書いていると、後ろからココに覗き込まれる。
「なに書いてるの?」
「来月、ココの誕生日でしょ? 呼ぶ人のリストだよ」
「……、あのさ」
「ん?」
「ボクは誕生日、ふたりきりがいいな」
その言葉にペンが止まり、ココに振り返る。
申し訳ないような顔をしている。そんな彼に笑いかけると、ホッとしたような表情を浮かべた。
リストをくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に放り投げる。
「本当にふたりでいいのね?」
「うん」
目を細めて、ミルクティーみたいな笑顔になる。それだけなのに、それが嬉しくて私まで笑顔になった。
当日まで色々なレシピを調べて、買出しに行ったりもした。
きっと、どんな料理を出しても喜んでくれるだろうけど、もっと喜ぶ顔が見たくて、メニューはギリギリまで決まらなかった。
前日から仕込みをした。なるべくココにはキッチンに来ないように言って。
料理は満足のいく出来だった。テーブルの上に所狭しと並べると、ココの顔が綻ぶ。
「こんなにたくさん……ありがとう、大変だったろう?」
「一年に一度の日だもん、これくらい平気だよ」
席について手を合わせる。同時にいただきますを言って、食べ始めた。
丁寧で優しい手つきで、次々に食べ進めていく。
「すごいおいしいよ」
「本当?」
「うん」
あっという間に食事を終えて、本日のとっておきを用意する。
冷蔵庫で冷やしてあったバースデーケーキだ。
甘さを控えた生クリームでデコレーションして、マジパンでココの人形を作った。
飴細工も乗せて、少し可愛らしくさせ過ぎたかもしれない。
それでもそれを早く本人に見て欲しくて、小走りでテーブルに向かった。
それがいけなかった。
途中でつまずいて、ケーキを持ったまま転んでしまう。
頭の上からココの心配そうな声が聞こえる。
「大丈夫?!」
「……うぅ……」
起き上がると、ひどい有様に涙が浮かぶ。
服にはもちろん、顔にもケーキの破片が飛び散っている。
「ごめん、ココ……ケーキ台無しにしちゃった」
「に怪我がないなら、いいんだ」
「でも、せっかく気合入れて作ったのに……食べて欲しかったよ」
「うん、ボクも食べたかった」
その言葉に、さらに涙がこみ上げる。
「じゃあ、いただきます」
「え?」
ココはそう言うと、私の肩をやんわりと掴んで、それから頬についたケーキをぺろりと舐めた。
突然の行為に固まるしかなくて、頬にはどんどん熱が集まる。
どこかいたずらっ子のような表情で、ココはケーキを食べた。
「うん、おいしい」
「こ、ココ……」
「ん? どうしたんだい?」
「どうしたって……」
その後の言葉は、キスで紡げなかった。
Sweet Birthday