誰かを愛おしと思う心を、持ってはいけないと言い聞かせてきた
けれども君は、いとも簡単にボクの心を溶かしてしまって
いつだって、ボクは君だけを想っているんだよ




明け方、薄寒さで目を覚ました
そう大きくはないベッドの中、ボクの腕の中で穏やかな寝顔を浮かべるがいて
彼女も寒いのか、体を縮めている

彼女の腕が、ボクの腰に回されていて
それだけの事なのに、胸の中が幸福感で包まれる

思えば、最初から不思議な人だった

ボクらが出会ったのはあの庭でだった
ボク達より少し小さな体をした君は、いつでも寂しそうな顔をしていて
それが何を意味しているか、その時のボクにはまだ分からなかった
ボクはただ自分のことばかりで、怯える君を最初から突き放してしまっていたね

トリコやサニー、ゼブラでさえも君を大切に思うようになって
ボクも出来るだけの親愛を持って接していたけど、君はそれを拒絶の意だと受け取ってしまった




『ココは、私のこと、嫌いなの?』


最初に出会った頃より、体も大きくなって
君はどんどん美しくなっていった
そんな君を彼らがどんな目で見ていたかも知っていたし、ボクの考えが変わる事もなかった

そんなある日、みんなが寝静まった頃
忍んでボクの部屋に訪れた君は、涙を溜めた目でそう投げかけてきた

そんな事ないよ、と答えれば君は納得して部屋に帰るだろうって思った
もちろんそれが最善の事だとも思っていたのに
どうしてか、すぐにその言葉が出てこなくて
ただ握りせ締められて皺になっている、君のTシャツを見ていた

距離を置いているのに、君はボクに近づこうとした
いつだって差別する事なく、当たり前のようにボクに触れて
その度にそっとその手から離れようとしていたボクに、君は気づいていたのかな


『私はココのこと、すごく大切だよ』


今にも泣きそうな顔でそう言う
なんの下心もない、純粋な気持ち
トリコ達に持つのとは違う想いが、ボクの中で渦巻いているのを、その時に自覚したんだ

汚い大人とも、共に戦い成長する仲間とも違う存在
きれいで、ちいさくて、よわい存在
その笑顔を守りたい、いつだってそう思っていたのかもしれない

けれども、ボクは危険な存在
君の傍に、最もいてはいけない存在だと思っていたから


『……ボクは、君の傍にいる資格がない』

『どうして?』

『僕は危険なんだ。知ってるだろう?』


君を傷つけない言葉を選んだ筈なのに、とうとう君の目から涙が落ちた
小さな手で顔を覆って、しゃくり上げる


『そうやっていつも、ひとりでいたんだね』


聞き取りづらい音声の中で、君が呟いた言葉
それはボクを責める訳でもなく、ただボクの処遇を悲しむものだった


『もう大丈夫。私がずっと、傍にいるから』


そう言って泣き顔を晒して抱き着いてきた君を、突き放せなかった
ただ単純に、嬉しかったんだ

ボクはずっと怖かった
誰かを心に踏み入れさせて、その人が心を荒らすのが
信頼して、寄りかかろうとした瞬間、その人が消えてしまいそうで
だからボクは、誰にも寄りかかろうともせずに、生きてきた

けど、君はそんなボクの傍にいてくれると言ってくれた
ボクが望む人が、ボクを求めてくれた
それがこんなにも嬉しい事だと、ずっと知らないまま生きていたんだ


は、こんなボクでいいの……?』

『こんな、なんて言わないで。ココがいいんだよ』


ボクの肩に頭を預けてまだ泣いている君に、どうか笑って欲しくて
初めて自分から、その背中を抱いた

『ココの手、あったかくて優しいね』

の手の方が温かいよ、と言いたかったのに
涙がそれを邪魔して言えなかった




『ねえ知ってる? 毒は薬にもなるの』

どこか得意げに話す君に、ボクは「知ってるよ」とわざと答えた
すると少し顔を赤くしてそれからそっぽを向く

『そうじゃなくて……もういい』

『どういう意味で言ったの?』

拗ねたそのひとつの動作さえ愛おしくて、ついからかってしまうのは悪癖かな
でもその後に続いた言葉に、ボクの方がおかしくなりそうだった

『……ココは私の薬なの。なくちゃいけないもの』

特異体質の君に、薬は必要不可欠で
へたをすれば、酸素や水よりも重要な物だった
そんな君だからこそ言える言葉は、ボクの視界を滲ませるには充分だった

『本当に、君って人は……』

後ろから抱き締めて、細い肩に額を乗せる
伝わってくる体温は高くて、小さく揺れる体が今にも壊れそうで
掻き毟ってしまいたい程、もどかしいこの想いを表す言葉
ボクは知らない



「……ん……こ、こ?」

寝惚け眼でボクを見上げる
小さく笑って、ずり落ちた毛布を肩まで引き上げた
腰に回された腕は上に上に、と
ボクの両頬を優しく包むと、こつんと額と額を合わせる

「眠れない?」

「いや、もう少し眠るよ」

「そう……なら、いい夢が見れますように」

鼻の頭に軽いキスをして、クスクス笑って君はボクの胸の中に納まる
すぐに寝息が聞こえてきた


ねえ、いつだってボクは君のことばかり考えているんだよ
君は幸せかい? 幸せなら、ボクも幸せなんだ
君の為なら、世界を壊す事だって厭わないくらい
それくらい愛しているんだよ


の肩を抱いて、ボクも毛布に潜り込む
彼女の体温が移って温くて心地のいい毛布
これならいい夢が見れそうだ、そう思いながら瞼を下した











Your love is my DRUG.











Image song 「Your love is my DRUG.」by Ke$ha