キッチンにて、最後の一品を重箱に詰めていた
後ろからトリコの腹の虫が鳴く音がしたけれど、いつもの事だと放っておいた

「できた……!」

見た目も味も完璧なお節ができあがった
段を重ねて、蓋をしてリビングへと運ぶ

「おせえよ、待ちくたびれたぜ」

「お待たせ。今年のは気合が違うんだ」

五段重ねの重箱を、トリコの目の前に置いた
匂いに敏感なトリコはすでに涎を垂らしている

「もう食っていいか?!」

「ちょっと待って」

恨めしそうな顔をしたトリコに、紅白色の袋に入った箸を渡す
首を傾げるトリコに、彼の名前が書かれた部分を見せた

「お正月はこうした箸で食べるんだって」

「へえ、なんでだ?」

「……そこは私もよく分かんない」

自分の名前を書いた袋の箸を持ち、ようやくお節の蓋を開ける
匂いが増したのか、トリコの涎が一層流れ出す

「ああもう我慢できねえ! いただきます!」

取り皿に盛る事なく、勢いよく箸を運ぶ
苦笑いを零しながらも、トリコにしては待ってくれた方かな、と暢気な事を考えた

がつがつとお節を食べ進めるトリコ
私はその端から取り皿にいくつか盛り、お節をつつく

「うめー!! 本当にお前の料理は最高だな!」

「ありがとう。今年の食べっぷりも見事だよ。作り甲斐があります」

「お、七色数の子!」

「ああ、それとね……」

お節がなくなる前に言わなくては、と思っていたが
トリコは予想以上の速さで食べていく
このままだと、訪問の前にお節が消えてしまう

「あのねトリコ! 今日……」

「うんめー!」

聞いちゃいない
どうしたものか、と考えている私の耳に、ピンポーンと音が届いた
ちょっと食べるの止めて! とほぼ無駄であろう言葉を伝えてから、玄関に向かう


「ココ! あけましておめでとう!」

「あけましておめでとう。はいこれ」

「わあ、幸福堂のおみくじ饅頭だ!」


丁寧に包まれたそれを受け取り、私はココを中へと招き入れる
優しい笑顔のココだったが、リビングでお節を空にしてしまったトリコを見て
その笑顔は急に鳴りをひそめた


「ああもう食べるの止めてって言ったのに……」

「おおココじゃねえか!」

「……トリコ、何か言う事は?」

「お、それおみくじ饅頭か?」


絶対零度の吹雪が吹いているのに、それに気づかないのかトリコは私の腕の中の物に目をつける
見事空になってしまった重箱を隅にやり、トリコが「早く来いよ!」と手招きをする

「……年明け早々、こんな事したくなかったけど……」

私はさっと重箱を取り、まだ残っているお節を補充するために、キッチンへと向かう
後ろの方でトリコの叫び声が聞こえた気がするけど、気のせいだと思う事にしておく

この後、サニーにリン、ゼブラに小松くんも来訪予定だ
今年もいい年になるといいな
そんな事を思いながら、重箱にお節を詰める私がいた