愛しているなんて陳腐な言葉がすごく嫌いで、だけど、この感情を表すにはその言葉以外知らない。
横で寝息をたてて眠る晋助を見て、いっそこのまま同化してしまったり、一緒に死ねたらなんて思ってしまうのは
きっとどこか脳みその回路がショートしているからだ。
喉の奥から、無理矢理外に出ようとする感情を、どうにか体の中に押し留めようと努力をする毎日の中で
いつか体丸ごと、呑み込むんじゃないだろうかって。
私であって、私じゃないその人を晋助は抱いたりするんだろうか。
いつものように髪に触れて、口付けを交わして、体を重ねて。
考えただけで気が狂いそうになる。
好きで、大好きで、愛していて、愛されて。
幸せな筈なのにどんどん強欲になっていって。
もっともっと、とねだると晋助は笑って私を壊すから。
腹の真ん中から抉られるように、そうして黒くなる。
黒くなって黒くなって、真っ黒になって最後に意識が飛ぶ。
肌のあちらこちらで発汗して、顔を真っ赤にして、舌を出したまま
晋助自身を咥えたまま、夢の世界に行くんだ。
口の中で、白濁の液体と混じる「愛している」がいつだって泣いていて。
だけどずるい自分はその「愛している」が泣いているのを見て見ぬフリをする。
これが、本当に人を好きになってしまった、私の愛の形なんだって知った時、一人で夜通し泣いていた。
別に苦しい訳でも、悲しい訳でもないのに。
ただどうしても泣いておきたくて、涙が腐る前に流してしまいたかったのかもしれない。
晋助の、薄いガラスみたいな唇に、触れたと同時に落ちた涙が、赤く見えて。
そうするともっと欲しくなって、自分の舌でそのガラスを抉じ開ける。
「……?」
目を覚ました私の野獣が、不思議そうな声で名前を呼ぶのは幸福なんだろう。
「どうしたこんな夜中に」
「晋助のこと、好きだから食べちゃおうかと思って」
鼻先はくっついたまま、一ミリだけ唇を離してその隙間から声を漏らした。
いっそ私の体が砂糖菓子だったら、晋助に食べられて彼の体の一部になって、きっと一生離れる事もないんだろうけど。
だけどそうしてたら、晋助と交わる事もできなくて、一緒にぐちゃぐちゃになる事もなくて。
情事の後、泥のように疲れ切った私の髪を梳いてくれる事もないだろう。
両の頬を捕まれて、普段通り抉じ開けられた口の中に晋助の舌が割り込む。
外では何かの虫と鳥が、まるで馬鹿にしているみたいに鳴いていて。
雨の日の匂い、汗の滴る音、触れる温度と晋助の片目の光。
何もかもが愛おしくて、何もかもを壊してしまいたい衝動に駆られる。
この感情を、欲情を、そして何よりもこの体を支配する全てを教えてくれたのは、他でもない晋助だ。
「お前のその目、本当にそそるなァ」
「うん……?」
私を組み敷いて、嬉しそうに見下ろす晋助が口にした言葉の意味を噛み砕く。
「隙あらば俺どころか、自分さえも食っちまいそうな目だよ」
「っあ! しん、すけ……っ!」
脚を抱えられたまま、押し潰されて。
急な圧迫感に吐き気すら感じた。
「し、んすけ……あ、もっと……!」
「いくらでもくれてやるよ。なあ?」
「ふっ! んあああぁぁっ!!」
体の最奥で何かが崩れて、目の裏には光が走る。
唇は重なったまま、お互いの酸素を必死に貪り合う。
愛しているなんて陳腐な言葉がすごく嫌いで、だけど、この感情を表すにはその言葉以外知らない。
うわ言のように「愛してる」と囁く私に、晋助が笑った。
金平糖を貪る女