華奢に見えて、実は逞しい体とか。
サラサラしていて、艶のある黒髪だとか。
全てがここまで整っていて綺麗な人なんて、この世にこの人くらいしか、いないんじゃないかって
時々、そんな事を思う。
「晋助」
窓の縁に腰掛けて、いつものように夜空を眺める彼の背中に声を投げる。
その声に、ゆっくり首を傾けるその仕草一つに欲情するのは、きっと自然の摂理だと思うわけで。
だから「どうかしたか?」っと聞く晋助に、そっと近づいた。
「……ん」
何て事ない、腕を差し出して彼の出方を待つ。
晋助は私と、私の腕を交互に一度ずつ見ると小さく笑って。
煙管をそこら辺りに放り投げると、迷う事なく私の腕を引っ張った。
鈴虫の鳴く声が聞こえて、まだそんな季節じゃなかったような、そんな気がしたけれど。
それよりも、咽かえるような煙の匂いと、晋助からする雄の匂いにクラクラしていた。
「はそうして時々、遠くを見るな」
「ん?」
「遠くを見ながら、そのままどっか行っちまいそうに」
無理な体勢で抱きすくめられたまま、晋助の低音を受け入れる。
体のどこかで骨の軋む音がした。
「私が、どこか遠くに行く前に……こうして抱き締めてね」
「当たり前だ。どこにも逃がしやしねえよ」
頬を摺り寄せて、まるで子どもが母親に甘えるように晋助は私を抱き締める。
体温を分け合うように抱き合ったままの私達は、きっと世界の中でちっぽけな存在でしかないのかもしれないけれど。
私にとって晋助は、世界よりも何よりも重要で重大で、私の人生において最大で。
だけど晋助には果たさなくてはいけない、目的があるから。
「晋助は、私が時々どっか行っちゃいそうにしているって思うんでしょ?」
「ああ」
「私も、同じだよ」
あなたはいつだって、遠くを見ている。
私よりも、ずっとずっと遠くの方を、いつだって一人で。
その時は私でさえも、あなたの隣に行く事は許されないみたいだから。
あなたが見ているその遠方に、私はいるのだろうか。
それだけが、気がかり。
「お互い様だよ」
小さく笑ったら、抱き締めている腕に力が入った。
「俺は我侭なんだよ」
「うん、知ってる」
知っている、そんな事。
あなたと出逢ったその日から。
だから、私もひとつだけ。
ギューして
Title by 207β