「不安か?」


まだ空の先が黒い時、眠っていた筈の小太郎が呟いた。
私を抱きしめてくれている腕は温かくて、その温度に安心していて、少しうとうとした脳でそれを聞き取る。


「……なんで? いきなりそんな事聞くの?」

が……あまり何も言わないからな。もしかしたら愛想を尽かされているんじゃないかと思って」


肩をなぞる指は、優しい指。
闘いや争い事に赴く時、その指は強く厳しい指になって私を突き放す。
彼曰く、私を守りたいからだそうだ。


「……そんな事、ある筈ないよ。あれ今、言葉おかしかった?」

「いや、多分大丈夫だ。……なあ


両頬を包まれて、まっすぐに瞳がこちらを向いている。


「俺はお前のために、何をすればいい?」


もしかして、気づいてたのかな。
ここ最近、意味もなく小太郎を見ていた事。
勘違いして、愛想を尽かしたと思っているけれど、全然違う。


「別に、何もしなくてもいいよ。ただ私を好きでいて」


小太郎を見ていた理由なんて、大した事じゃないのに。
出逢った時よりすごく、すごく優しい顔になっていたから。
ただそこにいるだけなのに、纏っている雰囲気が優しくなってて。

初めて彼を見た瞬間、凶器だと思った。
それが今じゃ、世界一優しい雰囲気で隣に、ずっと当たり前のようにいてくれるから。
嬉しくて、愛しくて、見ていたくて。


「小太郎から離れられるわけないよ。だって私の居場所は、小太郎だけだもん」


そう言ってもまだ、不安が拭い切れないのか、どこか遠くを見ているようで。


「いたっ!」

「ちゃんと私を見て」


頬を抓って意識をこちらに持ってこさせる。


「不安になったら言ってよ。いつだって、どこにいたって……私には小太郎だけなんだから」


頬にある彼の手の平の上に、自分の手の平を重ねる。
布団から出て、冷えた手先は私を夢の世界から一気に引き戻す。


「今だって冷えちゃった小太郎の手に、ちゃんとあたしの温かい手が触れてるでしょ?」

「……ああ」

「私達はこれだけ近くにいるって事」


それだけ言って笑った。
小太郎は安心したのか、そのままゆっくりと瞼を下ろして規則正しい寝息を奏でる。

私だって不安になるけれど、そう言う時に限って彼は安堵をくれる。
これからは、私も小太郎の不安に気づいてあげられるように頑張ろう。

今はただ、そのまま眠りについて。
私はいつだってあなたの隣にいるから。





君の体温に安堵する





BGM「ハチミツ」by aiko