「……どちら様でしょうか?」

「どちら様じゃない、桂だ」


そのセリフは確かに小太郎がよく言うものだけど。
目の前に立つ人物の髪型はセミロング。
女である私より長かった、長髪の小太郎ではなかった。


「私の知ってる小太郎はものすごい、うっとうしいくらいの長髪だった筈なんだけど?」

「色々野暮用でな」


邪魔する、といつも通り当たり前に家に入り込んでくる。


「へえー、バッサリやられたもんだね」

「ああ」


触れれば感触は前と変らず、相変わらず艶やかな髪。
下に指を通しては、また上に戻して落とす。
その繰り返しを飽きる事なく、延々と続けた。




「ん?」

「楽しいか?」

「うん」

「そうか」


何か言って欲しいのかと、脳をフル回転させてみる。
髪を切られるという事はよっぽどの事。
きっと何かまた、危ない事に首を突っ込んでいたんだろう。


「何も聞かないんだな」

「え、あ、うん」

「気にならないのか」

「別に。どうせいつもの事だし」


それに、こうやって帰ってきてくれれば満足だし。


「結局小太郎の帰る所は、私の所なんでしょ?」


ニヒヒと笑えば、無表情な小太郎と目が合う。
刹那、彼はフッと軽く笑い私の腕を引っ張る。
バランスが崩れてそのまま前のめりに小太郎の胸へ。


「確かに、俺が帰りたいと思う所は……お前の所だけだな」


私の髪を一束掬い上げて、軽く口付けをして。
そのまま顔に近づいてくる。


「髪の短い俺は嫌いか?」

「まさか。どんな小太郎でも出迎えてあげる」

「お前ならそう言うと思った」


そう言って唇に触れた。
サラリと触れた小太郎の短くなった髪がくすぐったくて。
切っても男前だから、と言ってあげようと思う。





サラサラリ