キラキラした青空に反して、心の中はドス黒かった。


「だらくっせえええぇぇぇっっっ!! 畜生! なんだってあんなヤツにいいぃぃ!!」


その原因はお昼の見廻りでの事。
いつも通りのルートを、今日は一人で廻っていて、お決まりと言うか案の定と言うか
道のど真ん中で男三人に絡まれてる、女の人を見つけた。
もちろん、真選組の一員として助けに行った。

だがしかし、そこでまた違う事件が起きるなんて、思いもしなかった。


「はいはーい、そこのお兄さん達」

「ああ?」

「いい年して、モテないからって女の人に絡むのはやめましょうねー。みっともないから」

「なんだと?!」


普段ならそこで、ばったばった薙ぎ倒してお終いの筈が
何を勘違いしたのか、三人の内の一人が私を見た。


「お姉さん、真選組の人?」

「……だったら何?」

「いやあ、だったら男に苦労してないんだろうな、と思ってな」


明らかにそれはそれを意味していて。
下品な笑いを浮かべて、私を見下す。
柄にもなくカチンときて、気がつけばその男に向かっていた。
それが、浅はかな挑発なのを忘れて。

勢いをつけ過ぎた体はいとも容易く、その男に捕まえられて
不意をつかれて情けないかな、唇を奪われていた。
何のための口づけなのか。愛も何もない、ただの見せしめ。
頭に血が上り、抜刀しかけたその瞬間体がふあ、と浮いた。


「テメェら! 俺の部下に何しやがる!」

「……っ土方さん」

、お前もお前だ! 何軽い挑発に乗ってんだよ! さっさとやっちまえ!」


たまたま通りかかった土方さんによって、私に触れた男はのされていた。
それからやっと頭が冷えた私は、残りの男達に鬱憤をぶつけるべく
今度こそばったばったと薙ぎ倒した。

結局、土方さんがその男達を連れて行ってくれて私はそのまま、屯所に帰ってきたんだけれども。


「……助けくれたのが局長じゃなくて、よかったぁ」


それはただの独り言。
できれば愛している人に、ああ言う場面は助けて欲しいものだけれども
きっと純粋過ぎるあの人は、これが不可抗力だと分かっていても傷ついてしまうから。


「……でもやっぱり、局長とのがいいよ……」


汚い、そう思いながら擦りすぎた唇から血が出ている。
人差し指で、つ、となぞれば指に赤がついた。

一歩一歩進む度、廊下の床が軋む。そろそろ局長の私室。
確か今日は非番だった、そう思い出すと心なしか足取りがゆっくりと、音を立てないものになっていく。

局長の私室の前に立った刹那
誰かの手によって、その部屋に半ば強引に引きずり入れられる。


「……局長?」

「二人っきりだから、名前でいいよ」


目の前には障子、後ろにはピッタリと彼がいる。
今、なぜか彼に抱き締められていて
非番だと思っていたのは勘違いで、彼はしっかり隊服を着込んでいた。

にしても、いつもと少し雰囲気が違うのは気のせいだろうか。
ピリ、とした何かが私を纏う。
くるりと方向転換させられ、向き合う形になった。


「勲?」

「今日、見廻り中何があった?」

「え?」


まさか、と思い彼の顔をマジマジと見ると、全てを知っているようで。
いつになく真剣な表情で私を見ている。
これは隠したり、しらばっくれても無駄だと踏んで素直に言葉を並べる事にした。


「……女の人が絡まれてて、助けようとしました」

「知ってる」

「そしたら、絡んでいた男に馬鹿にされました」

「それも知ってる」

「……頭にきて、突っ込んだら不意打ちくらって……っ」


急に思い出して、涙がこみ上げてくる。
汚い、汚い。あんな行為。
この人の前で、この汚い唇を見せたくない。


「……っあんなの、嫌だよ……勲とのがいい……!」


瞳と唇を交互に擦る。
涙に濡れた袖は、血の出ている唇に沁みて
ますます涙が溢れた。

ふと、両頬に彼の大きな手が触れる。
涙を拭うのを止め、目の前まで来た彼の顔を映した。
そこには真剣な表情から、優しく笑っている勲がいて
少しだけ涙が、止まる。


「知ってる。だから、泣かなくたっていいんだよ」


こつん、と慰めてるつもりなのか
おでことおでことをくっつける。子どもじゃないのに


「じゃあ消毒して」

「え?」

「今すぐ、勲がしてよ」


ん、と唇を突き出せば困ったように笑う彼。
我慢できるか分かんねェよ? と後頭部を掻く。
恥かしいから早くしてとしか言わない。

ちょっとずつ、降りてくる勲の顔。
私の瞼も少しずつ降りていく。

ちゅ、て軽い音がして、あったかい水が流れ込む


「ん……」


顎の下と左の頬に添えられた手。
啄ばむようなキスから、徐々に角度を変えて。
顎から後頭部に回る手に、がっちりと押さえられた。
両腕を彼の首に回す。

背のびをしている足に、絡む舌が電流を送って
危ない、そう思って一瞬顔を離す。
目が合って、微笑まれたらまた泣きそうだ。


「……もう、一回……もっとちょうだい」

「うん」


クスクス笑われて、背のびしていた事がバレていた。
後頭部に回ったままの手、頬にあった手は腰に移動している。
今度こそちゃんと支えられて、思う存分体重を預けた。

水の音が聞こえる。
でも、実際に響いているのは私と勲の呼吸の音だけ。

最初と同じ、ちゅ、て音で終わりの合図。
彼を見上げていると、みるみるうちに赤くなっていく。


……」

「ん?」

「そんなエロい顔されると、本当に我慢できなくなる」

「……いちゃいちゃしたい?」

「えええっ?! から誘ってくれるの珍しくない? 珍しいよね?!」

「……やっぱダメ、まだ仕事中」


この子ったら照れちゃってー!! とそのまま押し倒される。
布団がないから、かなりゆっくり、ゆっくりと。
そのまま畳とこんにちは。


「ちゃんと隅々まで消毒してやるな」

「……お願い、します」


やっぱり、私は
君だけ、君しか
君以外いらないよ。