目を覚ます。体を起こそうとすると、頭が痛む。
ゆっくりと起き上って辺りを見回せば、見た事のない場所で。
畳の上に寝かされていたみたいだ。
目の前を見れば、鉄格子。まるで、牢屋じゃないか。


「……ここ、どこ?」


時系列が思い出せない。
確か、銀ちゃんの所に行って、いつものように夕飯を食べて、それから少し他愛もない話をして。
それから、自宅に帰る筈だった。
万屋を出て、のんびりと歩いていた筈だ。
それがどうして、こんな牢屋みたいな所にいるんだろう。
思い出そうとすると、ズキズキと頭が痛む。

痛む頭を抑えつつ、辺りを見る。
八畳くらいの広さで、隅に行燈が置いてあってほのかに明るい。
でも、全体的には暗くて、どこか寒気すら感じる。
反対側の隅には、質素な便器があって。
明らかに人が生活する場所ではない事が分かる。
鉄格子の向こう側は、長椅子があって、それからやっぱり行燈があって。
階段が見えるし、窓がない事から、ここは地下なんだろうか。

一体、誰がどんな目的で、私をこんな所に連れて来たんだろう。

不安だけがどんどん募ってきて、震えだす体を一生懸命抑え込んだ。

不意に、階段を誰かが下りてくる音がして。
やっと自分以外の人に会える事が、こんなにも嬉しいなんて。
きっと、助けてくれるに違いない。そんな希望も抱いた。

下りてきた人物は、見知った人だった。


「……近藤さん?」

「ああ、さん。目が覚めたんだな」


真選組局長の、近藤勲。
よくお妙ちゃんを追っかけては、怪我をしていた。
気の毒で、たまに手当てをしたり話し相手になったりしていた人だ。


「あの、どうしてか私こんな所にいて……出してもらえませんか?」


警察の人だ、やっぱり助けに来てくれたんだ。
安心感から瞳から涙が零れ落ちた。
けれど、彼が放った言葉はそんな私をどん底に落とすものだった。


「出すわけにはいかねェんだ。すまないな」

「え……」

さんはこれから、ここで暮らすんだ」


笑顔で、そう言い放った彼に、疑問符しか思い浮かばない。
この人は一体、何を言っているんだろう。


「えっと……私、何か、悪い事、しましたか……?」

「いいや何もしてないさ」

「じゃあなんで……!」


近藤さんは長椅子に腰かけると、笑顔のまま話し始める。


「俺はなさん、いつの間にかあんたのことが、好きになっちまったみたいだ」

「え……」

「お妙さんといつも一緒にいて、俺に笑顔を向けてくれるあんたをな」

「そんな……」

「でもあんたには銀時がいた。はたから見ても、お似合いだった。でも、俺はどうしてもさんが欲しくてなァ……こうして、閉じ込めちまった」


乾いた笑いが、響く。


「……そんな事、許される筈がないでしょ……早く出して!」

「出したら、さんは逃げるだろ?」

「当たり前じゃない!」

「じゃあ出すわけにはいかねェな」


ごめんな、と眉尻を下げる近藤さんに、苛立ちと焦燥感が募る。


「……っ誰か!! 誰か助けて!!」


ありったけの声を出して、叫ぶ。それをやっぱり笑顔のまま見ている近藤さん。
私の声が、空しく響く。


「あんたの声はどこにも届かない。ここは俺しか知らない地下深くの牢屋だからだ」

「なっ……」

「大丈夫。飯はちゃんと食わせるし、風呂だって連れてってやるから」


そう言うと、彼は椅子から立ち上がり、ポケットから大きな鍵を取り出す。
それで牢屋の錠を開けると、中に入ってくる。
隙をついて逃げ出そうとするも、私より遥かに大きな体に邪魔されて、牢屋の中に押し戻された。
じりじりと距離を詰められて、座り込む私の前に彼が屈んだ。

押し倒されて、着物の前を開かれる。


「っいや! やめて!!」


何をされるかなんて、想像もしたくなかった。
必死にもがいても、なんの抵抗にもならなくて。
みるみるうちに脱がされていく着物、荒い息遣いと生温い舌が、体中を這う。


「いやだぁ……! 銀、ちゃん……! 助け、て……!!」

「無駄だって言ったろ? さんの声は、もうどこにも届かねェよ」


足を開かされて、ぐ、と押し込まれる。
脳裏に、銀ちゃんとの思い出が、ぐるぐると回って消えていく。


「いやあああああっっ!!」


痛い、苦しい、助けて。
揺さぶられる度に零れ落ちる涙。





泣いて叫んだって、助けなんて来ないのに





そう言って、彼は私の涙を舐め取った。

Title by 原生地「狂気的な愛で10のお題」