太陽の光が容赦なく降り注ぐ。
それから、湿度も上がって空気も暑いのは気のせいじゃない。
季節は確実に、夏へと向かっている。


「ああああああ! なんでこんなにあっついの!」


見廻りを早めに終わらせて、屯所に戻ってきたのはいいものの
まだ冷房の入っていないここも、町中と然程変わらない。
太陽が真ん中に昇るのと同じように、頭にも血が上る。

通気性ゼロの隊服を脱いで手に持つ。本当は投げ捨てたいくらいだけれども
そんな事してバレた日には、副長に何されるか分からない。
Yシャツの中に通る風が、お情け程度だけど心地いい。
耳に届くのは、この前局長が嬉しそうに飾っていた風鈴の音。

まだ他の人は見廻りが終わっていないのか、屯所の敷地内には誰もいない。
静かな雰囲気の中に聞こえる綺麗な音。
そのせいか、この場所が隔離されているみたいな錯覚。


「あ」

「お」


じゃりじゃりと歩いていたら、縁側でのべんとしている局長を見た。


「局長も見廻り終わったんですか?」

「うん、パトカーだったし」

「そうですか。にしても美味しそうな物食べてますね」


これ? と局長が掲げる手にあるのはアイスキャンディー。
桃味なのか薄いピンク色のそれは、今この状況に置かれるといつもの数倍美味しそうに見える。
まだ開けたばかりなのかアイスはほとんど齧られていない。

局長はアイスを咥えたまま、暑いよー暑いよーと唸っている。
彼もまた私と同じで、上の隊服を脱いでいて
違うのは局長はベストを着ていて、私はYシャツだけだと言う事。


「局長たるもの、そんなだらしない格好していていいんですか?」

「こんな炎天下の中、あんなの着てたら死んじゃうって」

「毛皮被ってるなら、それを脱げばいいじゃないですか」

「なに、毛皮って何? ゴリラの毛皮だとでも言いたいんですかコノヤロー!」


ムキィ! とする局長。それでも私の目はアイスに釘づけ。
それに気づいた局長が、何かを企んだらしい。
いきなりニヤニヤしだして、アイスをちょこちょこと振り回す。


、このアイス欲しい?」

「はい。 すっごい欲しいです」

「なら、あげてもいいぞ」

「……本当ですか?」


うん、本当。でもここまで食べに来たらな、と局長は自分の持っているアイスを指さす。


「……暑さで頭がやられましたか?」

「いや正気だから! からかってるだけだから!」


ちゃんは純情だからそんな事できないよねー、じゃあ俺がアイス全部食べようかなー、なんて
よっぽどゴリラと言われた事が悔しかったのか、これ見よがしにアイスに齧りつく。
ああ、アイスが半分になっている。

私は無言のまま縁側に乗り上がる。
局長はアイスを咥えたまま、その成り行きを見ていて
そんな彼にニヤリと笑ってみせた。


「ええええェェェェっ!?」


驚く局長の声がする。

のばされた局長の太腿つけ根の上に跨って、膝立ちになった。
驚いて口から外れたアイス。
肩に手を置いて、一応いただきますと声をかけてから桃色のそれを咥える。
しゃく、とアイスの折れる音。

そのまま目の前でしゃくしゃくアイスを食べていると、真っ赤になった局長の顔が見えた。
もうアイスはただの木の棒に成り果てていて。


「何してんのおおォォっ!」

「だって局長が、自分で食べに来たらくれるって言ったんじゃないですか」

「そうだけど! だけど!」


破廉恥! 破廉恥よ! と局長は顔を振る。
どこのオカマですか、と突っ込むとぐうと黙った。
まだ赤いままの顔を見て、今度は私が企む番。

肩に置いた手を、そのまま局長のうなじに移動させる。
汗でベタついたけど、あんまり気にならない。
何事かとまた慌て出す局長の耳に、口を寄せて囁いた。


「局長……最近すっごい暑いですよね」

「お、おう」

「私の部屋にも、クーラー入れて欲しいんですけど……」

「そ……れは、トシに聞いてみないと……なぁ」


その言葉の語尾が弱いのを聞いて、最後の一押しをする。
鼻と鼻がくっつくくらい、近くに顔を寄せて。


「お願いダーリン」


ちゅ、と鼻先にキスすれば
赤い頬に白目をむいた局長が、必死に頷いていた。


「よし、頷きましたね! 約束ですからね!」


さっ、と身をどかすと局長にもう一度聞いた。
まだ赤いままの彼は、やっぱり必死に頷いている。
ありがとうございまーす、と言葉を残して屯所の冷凍庫を目指し歩き出す。

数日後、私の部屋には快適な涼しい風が吹き始めた。