私の好きな人は、いつも笑顔を絶やさないでいて、それでいて生傷も絶やさない人。
部下からとても信頼されていて、そして部下のことをすごく大切にしている。
時にはお父さん、時にはお兄さん、時にはストーカー。
それでも、不思議と人を引き寄せるものがその人にはあって。
周りの人を笑わせるのが、本人には自覚がないけれどとても上手で
どんなに悲しくたって、辛くたって私は、その人が隣にいてくれるだけで、笑っていられる。


「……勲さん」


自分の部屋で、そう天井に呟いてみるけれど。
本人にはもちろん、他の隊士にも聞こえないくらい、小さな小さな声。
私は市民を守る真撰組で、こんな気持ち持ってはいけないのだけれど。
局長である彼自体が、ストーカーをしているんだから、これくらいの、小さな気持ち
大切にしたって、罰は当たらないと思いたい。

いつもは局長と呼ぶ、彼のことを今だけ、一人で膝を抱えている夜だけは
そう、そっと名前を呼んでみる。
けれど、その声はきっと、一生彼に聞こえることはないだろう。

いつもいつも、お妙さんを追いかけている彼を見ると、どうしても自分の気持ちを素直に言えない。
臆病で、今の場所を離したくない自分は、この気持ちを口にできない。

だけど、きっと。この気持ちが消える事もないから。
ずっと私の胸の奥を陣取って、苦しめ続けるんだろう。

素直な気持ちを言ってしまえば、彼に私を見て欲しいと思う。
けど、そう言ってしまえば私の気持ちの底は見つからないから。

でも、それでも、一方通行でも。
今の私には彼以外の人なんて、考えられなくて。

私をとても可愛がってくれている、片栗粉のおじさんが紹介してくれた縁談だって
こんな私を好きだと言ってくれた人だって
彼のことを思い出してしまうと、どうしても色褪せて見えてしまうから。

私の感情はいつだって、彼にしか動かないのに、同じように局長の感情も、お妙さんにしか動かない。
自分の気持ちで必死な彼はきっと、この小さな気持ちには気づかないだろう。



ふいに、障子を叩く音がして


? もう寝てるかー?」


聞こえてきたのは、彼の声だった。


「きょ、局長?!」

「あ、起きてるのかー。今入っても大丈夫?」

「は、はいっ! 大丈夫ですっ!」


失礼しますー、と言って近藤さんは少し、背を屈めて障子をくぐる。
寝巻き姿で何をしにきたのだろうと、胸の音が少しだけ早くなった。


「ど、どうかしました……?」

「いやな、今日の様子がちょっとおかしかったから、心配でな……」


どうしてだろう。この人は。
私が一番弱っている時に、そう優しく手を差し伸べてくれるのか。
図ったように、私を溶かしてくれる。そして、また好きが募る。


「……うぇ」

「おわっ! ど、どした?! なんで泣いてるの?!」

「だって……局長が、優しくしてくれるから……」

「……俺はいつでも優しいよ?」


そう言って頭を撫でてくれる手の平が愛しい。
ポスン、と音がして、私の頭はいつの間にか、局長の膝の上にあった。


「きょ、きょくちょ……?」

「弱っている時は寝るに限る! 今日はが寝るまでこうしてやるから、安心して寝な?」


俺のかったい膝で悪いけど。と、情けない顔で笑う局長に、また涙が零れた



でも、そうやって。
部屋の障子から見える月を見て、あなたは今何を見ていますか?
何を考えているの? 誰を想っているの?
局長の硬い膝に顔を埋めながら、私はいない神様に問いかける。



好きです、と。
局長の膝元で、聞こえないように呟いた。





こいのうた





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