鳥のさえずりが耳に届いて、瞼を上げる。
肩の辺りに重みを感じる。色だけを認識する視界をクリアにするために、何度か瞬きをする。
すると、目の前にアップで近藤さんの顔があった。


「……っ!」


そうだ、昨夜、私は彼に告白して受け入れてもらったんだ。
あまりにも嬉しくて、涙が止まらなくて、結局そのまま彼の寝室で眠ったんだ。
断じて、まだそういう関係にはなっていない。

聞こえてくる寝息、触れ合っている所から広がる体温が、夢じゃないと教えてくれる。


「……近藤さん」


夢じゃない事を、もっと実感したくて、なんとなく彼の名前を呼ぶ。
自然と浮かぶ笑みを隠す事なく、何度も名前を呼んだ。


「……勲、さん」


思い切って下の名前で呼んでみて、そっと、その頬に手を滑らせた。
すると、眠っている筈の彼の頬が、みるみるうちに赤くなる。


「え……」

「もー! 、それは反則だ!」

「え、え!? 起きてたんですか?!」

「眠れる訳ないだろォ!」


そう言って、彼は私に覆い被さる。
急な事に思考がついていかない。

真面目な、男の人の顔がそこにはあって。


「惚れた女が隣にいて、眠れる訳ないだろ?」

「あ、あの……」


途端に彼は破顔して、起き上がり手を差し伸べてくれていた。
その手を取って、私も起き上がると、抱き締められた。


「無防備でいるのは、俺の前だけだぞ」

「は、はい……」


コロコロと変わる、見た事のない表情に、心臓が破裂しそうだ。
そっと体が離れていく。恥ずかしくて、顔を上げられずにいた。
すると、私がしたように、頬に近藤さんの手が滑る。

く、と顔を上げられて、近藤さんの顔が近づいてくる。
これは、と思った時には唇が触れていて、そっと瞼を下ろした。

どれくらいそうしていたか分からないけれど、なんとなくお互いに離れて行った。
それを少し寂しく思いながらも、ふと、時計に目をやれば、そろそろ皆が起きてくる時間だった。


「あ、そろそろ起床時間です。私、部屋に戻らなくちゃ……」


言って、立ち上がろうとすると、彼に腕を引っ張られ、すとんと胸の中に納まる。


「ごめん、あともう少しだけ」









今だけは。









私を抱きしめる腕に、体温に、全てこの人という存在に、愛おしさを感じられずにはいられなかった。