私は、手を繋ぐのが大好きです。





私の好きな人は、真撰組の局長をやっている勲くんです
くんづけで呼んでいるけど、勲くんの方が私より年上です。
年上ー、とかオヤジーとか言うと、すぐに涙目になってしまう彼が、私はとても大好きです。

ちょっと前までは、スナックのお妙ちゃん、て子にベタ惚れだったんだけれども
そこは私の魅力で振り向かせました。
恋は盲目、ゆえに走り出したら止まらない。猛突進で勲くんにアタックをしました。
追う事はあっても追われた事はなかったらしく
勲くんは大層驚きました。が、次第に打ち解けてくれたようで


「勲くんのボーボーのケツ毛だって、今は生えてないけどいつか生えるかもしれない胸毛も全部大好きだよ!」


生まれて初めての告白の言葉がこれでしたが、勲くんにとっては何より嬉しかったらしく
屯所の前でそう叫んだ私を、とてつもない速さで抱き締めてくれました。


「ちょ……! 苦しいよ勲くん!」

! その言葉本当?!」

「本当だよ! 勲くんとならどこでも行けるし、なんだってできるよ!」


ふがふが言いながらニコーっと笑いました。
そうしたら勲くんは、鼻水なんだから涎なんだか涙なんだか、もうぐちゃぐちゃに混ざった液体を飛ばしながら、おいおいと泣きました。
その時の顔は生まれたてのゴリラみたいで、とても可愛かったのを覚えてます。
でも、沖田くんは「こんな顔を世に晒すくらいなら、いっそここで俺がやっちまいましょうかィ?」と言って
土方さんは「とりあえず幽閉しとけ」なんて、ひどい事を言っていました。

その日から始まった勲くんと私のラブラブライフ。
ちょっとナンセンスな名前だけど、これが一番妥当だと思う。
和菓子屋に勤めてる私と、真撰組で市民のために頑張ってる勲くんとでは、スケジュールがなかなか合わないけれど
それでも勲くんは忙しい合間を縫って、会いに来てくれます。


! ただいま!」

「おかえり! 勲くん!」


自分の家だから、迷惑をかける人がいないのをいい事に勲くんと玄関先で抱き合う。
勲くんの大きな腕と胸に挟まれると、嬉しい苦しさが体をいっぱいにする。
この瞬間がとても好き。

今日はなんでも大きな事件が解決したらしく、屯所内では今宴会をやっているそうで
そう言われれば、隊服から少しお酒の匂いがした。
手土産もなんだか、おつまみっぽい物だし。


「……勲くん」

「ん? どうかした?」

「宴会やってるのに……抜け出してよかったの?」


私の部屋なのに、私より早く奥に進もうとしてる勲くんの隊服の裾をぎゅ、と掴んで
振り返った勲くんの顔を見上げた。


「あー、うん。て言うか、皆にたまにはに会いに行ってやれって、追い出された」

「へ?」

「結構会ってるぞ! って言ったら、女は一日会えないだけで寂しくなるんだぞ! ってトシに言われてさ」

「それで来てくれたの?」


うん、って笑顔で頷く勲くんが、ちょっとだけ揺らめいた。
きっととっても疲れてる筈なのに。お酒だって飲みたかっただろうし、隊の人達ともお話したかったのに
わざわざ私の所に来てくれた事が、隊の人達も私の事を気遣ってくれた事がすごく
すごく、嬉しくて。


「勲くん……」

「おわっ! ど、どうしたの、……」

「好き、すごい嬉しいよ……」


勲くんのお腹周りに腕を巻きつけて、泣くのをぐっと堪える。
無駄なものがついてない、筋肉質の腹筋は、ちょうどいい硬さ。
私の手に、勲くんのおっきな手が重ねられた。

あったかい。このぬくもりはあの時からずっと変わらない。


「相変わらず、勲くんの手はあったかいね」

「そう?」

「うん。あの時と一緒」


あの時、って言うのは私が初めて勲くんと出逢った日の事。
お店の買い出しで、たくさんの材料を買った帰り道
間抜けにも、道のど真ん中で派手に転んでしまった。
このご時勢、助けてくれる人もいなければ、笑う人すらいなくて
皆、私なんていないみたいな視線だけを残して、通り過ぎていく。

別に誰かの助けの手を期待したわけでもなかったし、江戸がこういう所だってのは知ってた。
だけど、なんとなく、すごく悲しくなって
涙一粒、ポロリと地面に吸い込まれた時だった。


「お嬢さん、大丈夫ですか?」


そう言って目の前に出たのは、大きな手。
ゴツゴツした手で、一発で男の人だって分かった。

恐る恐る見上げれば、そこにいたのは黒い洋服を着た男の人。
顎鬚に、つんつん頭に帯刀。
ああ、これが俗に言う真撰組かぁ、なんて、さっきの悲しい気持ちはどこやら
呑気に彼の顔を眺めていた。


「あの……? 俺の顔に何かついてます?」

「きっとゴリラが喋ったから驚いたんですぜぃ」

「総悟?! ちょっと、何言っちゃってんのおおおォォォっっっ?!」


目の前でいきなり繰り広げられる漫才に、ちょっとだけ唖然としたけれど
転んじゃって、とだけ言った。


「そうですか。怪我とかしてません?」

「はい……とりあえずは」

「ならよかった!」


たった今出逢ったばかりの私の体を気遣い、立てないでいた私の代わりに勲くんは、道端に落ちてしまった荷物を拾い上げてくれた。
破れてしまったスーパーの袋は使い物にならなくて、勲くんはパトカーから大きな紙袋を持ってきてくれた。


「こんな立派な物に入れてもらわなくても、大丈夫ですよ?」

「いえいえ! 気にしないで下さい!」


そう笑顔で紙袋をくれた勲くんに、その場で惚れてしまったのは、容易に想像がつく話。


「未来なんてさ」

「うん?」

「もちろん私にだって予想はできないし、勲くんにもできないけど」

「そうだなァ」

「これだけは言えるよ」

「なに?」

「私ずっと、この手は離さないってこと」


いつだって私を優しく包んでくれる大きな手。
落ち込んだ私を一生懸命に慰めてくれる手。
その手はいつだって、温かさと愛情に満ち溢れてる。
こんな贅沢で、愛おしい手、世界中を探したて見つからないから。


「だから勲くんも、私の手、離しちゃダメだかんね」

「おう」


そう照れて頷いてくれる勲くんが、やっぱり今日も愛おしくて
きっと、ずっと明日もその先も、続いていく日毎日勲くんが愛おしいだろう。
この手を握って、二人で笑い合って。そんな幸せな日が明日もその次の日も、続けばいい。

そっと、そう祈りながらもう一度手の平に力を籠めた。










そののぬくもり