それは少し蒸し暑い日の午後の事。
女隊士であるは、屯所の縁側でのんびりと時間を過ごしていた。
片手には氷水、もう片方にはつい先程土方から貰った(奪った)アイス。
円盤型の六個入り。コーティングされたチョコレートが程よく甘い。


「お、じゃないか! ここで何してるんだ?」

「局長」


ふと彼女の後ろに近藤が通る。
赤い棒を咥えたまま、彼女は近藤を見上げて
近藤はそんな彼女に苦笑しつつも、その体を折り曲げての隣に座る。


「よいしょっと」

「局長、その言い方ちょっと親父臭い……」

「む、親父じゃないもんね! トシとか総悟も言うもんね!」

「そう言い返すところがまた……」

「……がいつになく冷たい」


それも当然だろう。
こんな蒸し暑い日、誰だって人といるのは多少うんざりする。
しかも近藤並の巨体を持つ、ただでさえ暑苦しい男が隊服をキッチリ着こなした上に、隣にピッタリと密着されれば
対応はそれ相応に冷たくなる。


「そう言えば何食べてんだ?」

「ん? これ?」


問われたは、片手に持つ白と赤の箱を掲げる。
近藤はそれを見て「ああ、非゜野ね」と反応した。
掲げた手をは膝元に戻し、また食べ始めようとしてその手を近藤によって遮られる。


「な、何すんですか」

「いや、……この食べ方……何?」

「は?」


そう言われふと自分の膝元に目をやる。そこにはいたって普通の非゜野。
ん? と首を傾げるも、どこが不思議なのか分からない。


「非゜野ってさ……普通縦か横一直線に食べない?」


彼女の膝元に置かれている非゜野の位置。
上段の真ん中一つがなく、逆に下段は真ん中のみ残っている。
特別に意識して食べたわけではなく、ただ何となくいつもと違う食べ方をしただけだった。
が、答えるのが非常に億劫だったは、何も言わずに近藤を見た。


「もしかして何かのおまじない? それとも呪い……? はっ! まさか……俺のケツ毛がますますボーボーになんて……」


アイスの食べ方が少しおかしかっただけで、ここまで想像を膨らませられるこの人を
ある種尊敬の目で見た方がいいのでは、とが思い始めた時だった。
ガッと勢いよく、近藤がの細い肩を掴んだ。


「分かった!」

「は?」

「この食べ方が今、若い奴らの間に流行ってるんだな?!」


何かを発見した冒険家のように。カブトムシを見つけた夏の少年のように。
近藤は瞳を輝かせて、にそう言う。
そんな彼を見て、は笑いと同時に違う温かなものが湧き上がるのを感じた。


「……そうですよ? 今度局長も試してみたらどうですか?」

「おう! そうする! あ」

「へ?」


ペロリ


「なっ!!」


ズサアアァッ、とがとんでもない速さで後ずさりした。
口元に手を当て、顔を真っ赤にして。
近藤はそんな彼女をキョトンとした表情で、見ている。


「なななななな何するんですか!!」

「いや、口元にチョコついてたから……そのままじゃ恥かしいだろ?」

「だからって……舐めなくてもいいじゃないですか!!」

「えー?」


口をパクパクさせ、信じられないといった顔で近藤を見るに、近藤は笑いながら立ち上がる。


「じゃあ俺はこれから非゜野買って来るから! 教えてくれたお礼ににも買ってきてやるな!」


残されたのは、氷が溶け切った氷水と溶け始めた非゜野。
それから、顔を真っ赤にしたまま呆然としていただった。


***


「……近藤さん、あんた何してんだ?」

「おうトシ! こうやって非゜野を食べんのが今流行ってんだってな!!」


その夜、縁側で土方が見たのは
口周りをチョコだらけにして、と同じ食べ方で非゜野を食べている近藤だった。


「また騙されたのかよ……」