※こちらの作品は「捩じ込んだ塊」の続編です





鬱陶しいくらいに輝く太陽の光に、眩暈を覚えた。
市内見廻りの途中、缶の紅茶を片手に溜息を吐く。

まだ、体の奥に残る痛みと罪悪感で、今にも泣きそうになる。

ずっと局長としか見ていなかった人が男になって。
その人は、私を乱暴に抱いた。
いっその事本当に、憎しみだけが残るような抱き方をしてくれていれば、何の未練も残さずに、真撰組を辞める事ができたのに。
どうしてまだ、この制服を着ているんだろう。

力を込めたせいで、ベコリとへこんだ紅茶の缶から中身が零れ落ちる。
街行く人は、何事かと私を見るけれど、何の声もかけずに去っていく。それが今の江戸だ。
そんな冷たく腐った街ですら、守りたいと思ったのは、どうしてだったんだろう。


「おい、どうしたんだ?」


声をかけられて、顔を上げればそこにいたのは副長で。
険しい表情で私を見下ろしている。ああ、きっと、サボりだと思われたんだろう。
ちょっと眩暈が、とだけ言う。
すると、額に少し冷たい手の平が宛がわれた。
誰のものなのかを確認しなくたって、目の前にいる人間はこの人だけだ。


「熱とかはねェみたいだな。どうせ見廻りのルートは終わってんだろ?」

「はい……」

「じゃ、屯所に戻れや」

「……ありがとうございます」


お辞儀をして、副長に見送られながら屯所を目指し始める。



いくつもの砂利道を歩いて、裏路地を通って屯所を目指した。
近道であるこの路地は、普段あまり人がいない。
いるのは、迷い込んだおのぼりさんか野良猫くらい。

ふと、誰かの気配を感じて振り返る。
けれども、そこには誰もいなくて。大通りを行き交う人達が見えるだけ。

すると急に腕を引っ張られる感覚。
瞬時に動き出した景色に、目を回した。

ここは、誰かの腕の中だ。
覚えのある、腕の中。


「……局長?」


見上げて彼の顔を覗きこんだけれど、逆光で何も見えなかった。
路地裏に聞こえるのは、私の小さなその声と、彼の息遣い。
引っ張られた腕は捕まれたままで。


「……なっ!?」


隊服の裾から入り込んだ、彼の無骨な手。
素肌を刺激する手の平に体は震える。


「な、にするんですかっ……やめて、下さいっ!」

「俺さ、このままでもいいかな、って思ったんだ」


私の言葉なんて聞いていないように、局長が耳に口を寄せて。
その一つの動作に、反応する自分の体に驚く。


「だけどやっぱり嫌なんだ」

「……何が、ですか」

に触っていいのは、俺だけがいい」


その時にようやく気がつく。
彼は、あの時見たんだ。副長が私の額に触れたのを。

隊服のジャケットを脱がされて、ワイシャツの前ボタンを開けられる。
後ろから抱きすくめられた形だから、グニグニと局長の手によって形を変えられる自分の胸が見えて
羞恥心から来る頬の熱に耐えられなくて、目を逸らした。


「や、だ……っ」

「ダメだよ。ちゃんと俺だけをの身体に覚えさせないと」


摘まれた胸の頂点に、声が上がる。
以前の時とは違って執拗に同じ場所を攻め立てる、その手が、いつしか思考回路を麻痺させていく。
肩に近い首筋をきつく吸われて、痕を残された。

指で頂を挟まれたまま、形を変える胸。
晒されている肌が、春の温い風に吹かれて寒さを感じる。
私の手の平は局長の隊服の裾を握っていて、必死に彼の腕の中に隠れようとしていた。

片方の胸が解放されて、脇腹をなぞるように局長の手が下りていく。
嫌だ、と懇願しながら首を振っても、彼の手は止まらない。

ついに辿り着いたスラックスのふち。
ボタンを外されて、それ自身の重みでスラックスはストンと地面に落ちた。
そっと、下着越しに彼の指が触れる。


「っあ……」


指先に力が篭った。
脚を閉じようにも、すでに局長の脚が差し込まれていてそれも叶わない。
ただ、本当にされるがまま。どんどん麻痺していく。

布が擦れる音と、粘着的な水音。
あの日の嫌悪感と、新しい何かの感情が湧き上がってくる。


「や、めてっ……こんな所で……っん!」

「止めたら辛いのはだろ?」


どことなく嬉しそうな声で、局長は言った。
同時に、布越しだった指が下着の端から侵入してきて、直接秘部に差し込まれた。

すんなりと局長の指を受け入れてしまった事に、驚き、そしてその事実が瞳から、涙を流し落とし始める。


「邪魔だから脱がすよ?」


もう片方の胸も解放されて、その手で彼は私の下着を脱がした。
中途半端に太腿の下で止まっている下着が、嫌で嫌でしょうがない。
胸に戻ってきた手の平。一本だったはずが二本に増えた、膣内の指。
その間も喉からは、引っ切りなしに声が出ていて、
耳に届いたのはそんな私の声と、グチグチと言う水音。

バラバラと動いていた指が、ある一点を掠った。
途端、声が今まで以上に大きくなる。


「ひあっ?!」

「ここがいいのか?」


バラバラだった筈の指が、同じ場所を抉るように動き始めた。
自分でさえ知らなかったその場所を攻め立てられ、脳みそが揺れ始める。


「やだ、やっ、だぁ……!」


首を振って、なけなしの力を振り絞って彼の腕を外そうとする。
けれどもそれは、何の意味も持たない。
むしろ、秘部に触れていた彼の手を握った瞬間、溢れていた自分の、認めたくない水音の原因を知って。
頬だけじゃない、顔全てが熱くなった。

ぐりっ、と最奥の近くを指で抉られて。
急な快感に、体と頭はついていけないまま、頂点に達する。


「ふあっ……う、んんっっ!」


爪を立てた際に、局長の腕に赤い線が引かれた。

ズルリと抜け落ちる彼の指。急な空白に秘部がひくつく。
ちゅ、と軽いリップ音が聞こえて。局長が首筋にキスを落とした。

くるりと回転させられて。達した状態の私は、抵抗する事もなく局長と向き合う。
あの時と同じで、やっぱり哀しい痛い表情の彼がそこにはいて。
だけど、疲弊して声が出せない。

ぎゅっと抱き締められた。


「こんな事してるのに、やっぱりは俺のものじゃないんだよな……」


もたれかかったままの私は、その言葉をどこか遠くで聞いている。
体が少しだけ離れて、局長はそっと私の唇に自分のそれを重ねた。
自然と持ち上がる腕を、彼の首に回す。
絡む舌と舌。唾液を交換して、彼のキスに応えていた。

体を持ち上げられて、そのまま一気に挿入される。
急な圧迫感に息ができない。
局長の両腕だけが、私を支えている。


「ふっ、ぅ、んっ……あ、やっ……」

っ……」


最奥を突かれては、浅く抜かれる彼自身を秘部は離そうとしなかった。
砂利が擦れる音とボタボタとはしたないくらいに流れ落ちる、体液。
ワイシャツだけを纏った私と、隊服そのままの局長。
繋がったままの唇が、一瞬離れていく。


「どうしたらっ……は……、っ俺のものになるんだ……っ?」

「んっ、はあっ……あ、やぁっ……!」

「っ好きだ……っく」


流れ続けていた涙のせいで、視界が歪んでいたけど
確かにその時、局長は。


「な、かない……でっ……」


絶頂が近づくのが、分かった。
自ら、顔を局長に近づける。彼はそんな私に唇を差し出す。
きっと、声を抑えるためだと思っているのだろう。


「出し、て……っ?」

「……?」

「きょ、くちょ……のっ、あ……欲しいから、っ……」


ドクンと、自分の中にいる彼自身が脈打つのを感じた。
止まる律動と、驚いたように私を見る局長。


「っ……んう?」

「何で……そんな事言うんだよ……」

「局、長?」

「酷い事してるんだぞ? なのに、何で……」


麻痺していた脳が、徐々に覚醒していく。
きっと、局長の言っている事が正しいのかもしれない。

心の奥底では、否定していた気持ち。
どこかで認めないようにしていたのは、始まりが始まりだったからで。
だけど、思い出した事がある。


「好き、だから」


私にとっての、絶対的存在。
いつだって光を与えてくれた、太陽。
単純に考えてしまえば、いつだって私はその背中に憧れていたんだ。


「あんな事されたけど……やっぱり局長の傍を離れられなかった」

……」

「信じられないかもしれないけど……局長が、好きです」


身体の奥に残っていた罪悪感は、彼を苦しませたから。
乱暴に抱かれなくたって、きっとこの気持ちがなければこの人の傍を離れていた筈。
それをしなかったのが、私の気持ちの証拠。


「……もう一回言って」

「好きです」

「も、一回」

「愛してます、勲さん」


汗ばんだ頬を擦り付けて、笑った。
彼の流れた、一筋の涙が冷たくて、だからキスをした。

また動き出した局長に、動きを合わせる。
何度も唇を交わらせては、時々酸素を欲したりして。
最奥を突かれて私が先に果ててしまう。


「ふあっ……んっ、あ、ああぁっっ……!」

「っ……っ」


その後にすぐ、二、三度腰を打ちつけた局長から吐き出された液体が、最奥を穢したのを感じた。





「夢、じゃないんだよな?」


行為の後、ずるずるとその場に座り込んだ局長は、あの時と同じように私を抱きかかえたままそう聞いた。
私は「本当ですよ」とだけ呟く。


「その……本当に、すまなかった……」

「もう平気です」

「でも、俺……最低だな」


自嘲気味に笑う彼。
せっかく、お互いの気持ちが繋がったのだから、笑顔になって欲しい。
そう思って、そっと彼の唇に吸いついた。


「本当に、もう平気ですから」

「……うん」

「その代わり、これからは飛びっきり優しくして下さい」


私の言葉に目を丸くして、それからようやく嬉しそうに笑う彼を
心の底から、やっと素直に愛おしいと、そう思えた、裏路地での情事後。





息もできない程の





Title by BLUE TEARS