それはほぼ恒例となっている、息抜きと称した宴会での事。
大広間に夜勤以外の隊士が集まり、お互いにお互いで酒を注ぎ合い、普段の鬱憤を晴らしている時だった。


「土方さん、飲んでますか?」


真撰組唯一の女隊士のが、頬を赤らめて土方に絡み始めた。
口調こそはしっかりしているものの、普段とは雲泥の差の態度と
何より上気した頬と潤んだ瞳が、酔っ払っている事を物語っている。

元々、あまり酒が強くないは、他の先輩隊士から注がれた酒一杯で、すでにできあがっていたらしく
それに悪乗りした他の隊士もやれ飲めと次々に注いで、ついには完璧な酔っ払いと化してしまった。


「馬鹿野郎、酒は飲んでも飲まれないのが常識だろうが」

「だって、皆さんが注いでくれるんですもん。飲まなきゃ失礼じゃないですか!」


ぶーぶー、とふてくされるに土方がため息を吐く。
気がつけば周りのほとんどが夢の中。
仕方がない、と土方が腰を上げた時だった。


「俺は酔っ払ってなんかいないぞー!」

「おわっ?!」


土方の足元で寝ていたと思われた近藤が、いきなり飛び起き、意味不明な言葉を叫び出す。


「あはは、局長の格好エローい」


はいきなり起きた近藤に驚く事もなく、ただケラケラと彼を指さし笑っている。
そのおかしな言葉に土方は、はたと近藤の姿を見た。
ブワリ、と。土方の毛穴と言う毛穴から、嫌な汗が出て、暑い夜半にも関わらずブルリと身を震わせた。


「近藤さん! あんたいくら酔っ払ってるからって、その格好はどうなんだ!?」

「ううん? これ変かぁ? ただの着流しじゃんかァ」

「着物肌蹴てますよー。それに汗かいてて……やっぱりエロいですよーあはは!」


は座ったまま、ボケッとする近藤に近づき意味もなく笑いながら彼の脇をくすぐる。
よほど脇がくすぐったかったのか、近藤が暴れる。
そのせいで、ただでさえ肌蹴ている着流しは、余計に肌を露出させた。
そんな光景を見ていて、げんなりしている土方。


「じゃあ酔っ払ってる局長を部屋に送ってきます! 副長!」


ビシッ、と敬礼を決めて。しかし、やっぱり顔は腑抜けたまま。
立ち上がり、片手は敬礼しているため額の前にあるが、もう片方の手はしっかりと近藤の着流しを握っていた。


「……変な気起こすなよ。テメェもさっさと自分の部屋行って寝ろ」

「あはは、ゴリラに欲情する程まだ廃れてませんよ!」


酔っ払っていると本音が出る、とは言うが。
まさか堂々とそこまで言うか、と土方はズルズルと引き摺られていく近藤と、引き摺るを見てそう思う。



廊下にズルズルと言う、シチュエーションによっては不気味な音が響く。
酔っ払い、上機嫌なはふんふんと鼻歌を歌いながら、近藤の私室を目指した。


「よし、着いた!」


はスパン、と勢いよく障子を開ける。
相変わらず引き摺ったままの近藤を部屋へと運び、布団を敷くために隅へと彼を投げ出した。


「布団、ふとーん。寝る時に使う物ー」


今度は歌詞までついたその歌を、止める者は誰もいない。
酔った彼女が敷いた、歪な布団。
それを眺め、満足そうにまた近藤を引き摺る。
だが、足にも酔いが回ったのか、近藤を布団の真ん中まで運び終えると、その上に重なるようにはぱたんと倒れてしまった。


「……あれ、足に力入んないなぁ」

「んん……あれ、?」


彼女が倒れこんだ事で近藤が目を覚ます。だが、その顔はまだ酔っ払ったまま。
相変わらず頬は赤いまま、暴れたせいで無駄な汗も、そのままだ。


「おお、局長! おはようございます」

「おはよう……? ってまだ暗いよ」

「あれ、本当だ。あは」


えへへー、と近藤の顔を覗きこんでが笑う。
ひっくと、喉を振るわせた近藤の目に映ったのは、月明かりに照らされた彼女。

桃色の頬、潤んでいる瞳、自分に向けられている笑顔。

年甲斐もなく、心臓がときめくという感覚を覚える。
黙り込んだままの近藤に、は「ん?」と首を傾げた。


「てか局長、すごい汗ですねー。上、脱いじゃいましょう!」

「ええええっっっ」


はしゃぎながら、近藤のほとんど肌蹴て意味の成していない着流しを、はぱっと脱がしてしまう。
途中ま、ほんのついさっきまで笑っていたが、今度は急に黙り込む。


「……ー?」

「……局長の、好きな人は……お妙さんですもんね」


目と目がかち合った。
の瞳からは今にも涙が零れそうで、その場の雰囲気が、少しだけ変わる。


「今ここで、局長が好きだって言ったらどうします?」


酔いに任せて言う気なんて、なかったんですけどね、と。
自嘲気味に笑うの表情の中に近藤は、ふと女を見つける。


「……ケツ毛ボーボーだから、やめなって言う」

「それでも、好きですって言ったら?」

「俺、ストーカーだし、って言う」

「私も局長のストーカーします、って言ったら?」


なんだろうな、この質問のし合い。といくぶん酔いの冷めた頭で近藤は思った。
目の前で泣きそうな部下。お互い酔っている筈なのに、それでも確かに感じるのは、彼女が掴む着流しの部分。

お妙に向ける、大きな衝動のような気持ちではなく
沸々と、まるで昔からあったものが再熱するような
そんな気持ちを、今近藤は目の前のに感じていた。

気づけば、口付けていた。
違う酒の味が混じっている事で、それに気がつく。
近藤がうっすらと瞼を上げれば、そこにいるのは嬉しそうに目を瞑っている

唇をそのまま首筋へと、移動させる。
はチリッ、と感じた小さな痛みに妙な幸福感を抱いて。
するりと外される帯に、なんのためらいもなかった。


「ふあ……っ」


汗が跳ねる度、は声をあげる。
薄っすらと開いている障子から差し込む月光に、の肌が光って
庭の池の音と重なるように、違う水音が響く。
生理的に流れるの涙を、近藤は親指の腹で拭った。
その手をそのまま、シーツをきつく握り締める彼女の手に被せて
解き、離さないように掴んだ。
唇を合わせる。同時に舌が絡んで
畳がゆるやかな流れと合わせて、キシキシと音をたてている。
空いている手の平を、彼女の太腿の裏に回せば、一層甲高い声が近藤の耳を支配した。


「あっ……! や……ぁ……きょ、くちょ……!」



「……う、ん?」

「名前で呼んで」


言った瞬間、最奥を突かれてはまた鳴き声をあげる。
いじわる、とでも言いた気には近藤を睨みあげるが、それもただの誘発剤にしかならない。


「……い、さお……」

「聞こえない」

「っ……勲……!」


近藤は「よくできました」と呟くと、律動を速めた。
揺さぶられる体と、流れ込んでくる快感にお互いが必死になり始める。
は何もない手を、近藤の背中に回した。


「……んあっ!」

「っ……っ」


意識を手放す、その一瞬前触れるだけのキスをした。



隙間から吹く朝の風に、先に起こされたのは近藤だった。
ズキズキと痛む頭。ふと自分の腕の中を見れば、すやすやと無防備な寝顔のがいて。
ずり落ちた布団を肩まであげてやる。
片腕で自分の頭を支え、もう片方の手は彼女の髪を梳いている。

ふと、時計を見上げればまだ誰も起きていないであろう時間。
もう一眠りしようと、の体を抱きかかえて近藤はまた瞼を閉じた。

そんな二人が寝過ごして、土方に叩き起こされるまであともう少し。




酔っ払いブルースと月夜の蜜事