茹だるような暑さ、頭の芯が硬い。
頬を伝う汗は止まる事を知らず、地面に染みを作る。
着込んだ隊服は、それらを嫌と言う程助長させる。
「暑いなあ、トシ」
「そうだな」
涼しい顔をしている男も、やはり頬には汗をかいている。
それでもだらしない顔をしないのだから、すごいもんだ。
慰め程度に手で顔を扇ぐ。温く弱い風がぶつかってくる。
この暑さでが熱中症になんてなってなければいいんだけど。
「そろそろ戻るか」
額の汗を拭いながら、屯所への帰路を歩き出した。
***
屯所の門を潜って、俺はすぐに上着を脱いだ。
見回りを終えて、ここでなら構わないだろう。
トシも同じ事を思っていたようで、俺と同じように隊服を脱いでいた。
通気性の悪い上着を脱げば、幾分かマシになって
背中に貼りついているシャツの間に、風が通る。
それだけでだいぶ気分がよくなる。
「きょくちょー、ふくちょー、お疲れ様ですー」
顔を真っ赤にしたが、茶の入ったグラスを両手に持ってやって来た。
差し出されたそれを遠慮なく受け取って、一気に飲み干した。
「ぷはっ、生き返る! ありがとな」
「いえいえ」
さりげなくグラスを受け取る。
こういう気遣いができるところを、改めて好きだと感じる。
自然と浮かんでくる笑顔を隠す事なく、彼女に向けた。
そうすると、も満面の笑みを返してくれる。
どこからか、誰かが飾った風鈴の音が届いた。
がチラチラと俺を見る。
その視線は、胸元だったり腕だったり色んな所を彷徨っている。
目が合うと何かを誤魔化すように、ニコッとされた。
「どうした? 俺、なんか変?」
「いや……変じゃないです。変とかじゃなくて」
慌てて目を逸らす。何か隠してる?
気になって、の顔に自分の顔を近づける。
「なんだよ、気になるだろう。怒んないから言ってみなさい」
「えーっと……その」
「うん」
「普段隠れてる所が露出されると、色気を感じるなあって……てへ」
それだけ言うと、脱兎の如く駆け出して行った。
残された俺とトシの顔は、とても間抜けなものだった。
トシは咥えていた煙草を落としそうになるし、俺も暑さのせいじゃない顔の熱さをどうにかしなくちゃいけなくて。
それ言うなら、彼女の首筋に光る汗も相当くるものがあった。
けれど、そんな事言ったらセクハラになるから、言わなかったのに。
「ズルいよなァ……」
せっかく少し涼んだというのに、これじゃあ逆効果だ。
脱いでもアツイんです
Title By Fortune Fate「ひと夏の五題」