その衣装は心配をよそに、意外と私の体にフィットした。
まるでオーダーメイドなのでは、と疑いたくなるくらいに。


「まあちゃん! すっごい似合ってるわ!」


後ろでドラキュラの格好をしたお妙さんが、きゃいきゃいとはしゃいでいた。
女性用に改造されているそれは、そんなに露出がなくそれでも大人の気品を醸し出すデザインで
むしろ私はそっちの方が、とも思ったがせっかく用意してもらったのだし
この際一日だけでも楽しもうと、前向きに考えた。

数日前、お妙さんに「ハロウィンパーティーしない?」と声をかけられた。
ちょうど予定もなく暇な私は、二つ返事で了承した。特に何も考えず。
お菓子と軽い食事を持ち合って開く、と言われたので当日である今日、ラフな格好で来ると
渡されたのは今着ている衣装だった。


「なにか手伝う事ない? 新八君」

「大丈夫ですよ、あとはそっちに持って行くだけですからあああァァってええええ?!」


振り返った新八君は、顔を真っ赤にして後ずさった。


「……やっぱり、おかしいよねこの服装」

「い、いや……その、確かそれって姉上が……」

「せっかく選んで用意してくれたんだし、着なくちゃって思ったんだけどね」


照れ隠しに頬を掻く。新八君はあーとかーとか唸って何かを言おうとしていたけれど
後ろの方で爆音と、お妙さんの怒声が聞こえる。
なんとなく予想がついてしまう辺り、ため息が出てしまう。


「てめェらは呼んだ覚えはないんじゃあああ!!!!」


激しい土煙の中、鬼の顔をしたお妙さんが叫ぶ。
その横で既にのびている銀さんが見えた。いつもの格好じゃなくて、なんだか縞模様のセーターと鉤爪をつけている。
彼なりの仮装なのかな、と銀さんをつついている神楽ちゃんを止めつつ、私はお妙さんの横に行って、一応形式上「どうしたの?」と聞く。


「いいのよ、気にしないでちゃん。変な物体が紛れ込んできただけだから」


だんだんと土煙が消えていく。次第に見えてきたのは


「……ゴリラ? と、え……バニーガール?」


先にガバッと起き上がったのはバニーガール。
案の定それはさっちゃんで、彼女は「これは仮装の代名詞よ! 銀さん、私にトリックオアトリックー!!」と飛び上がる。
それをいつの間にか起きていた銀さんが足蹴にした。
それにしても、毎度の事ながら完成度の高いコスプレもとい仮装だと、感心してしまった。


「珍しいな、お前がそんな格好すんの」

「え……これは、お妙さんが用意してくれて……」

「いい眺めだわー」


真上から鼻筋を伸ばした表情で銀んが言う。
私の声が発せられる前に、お妙さんの拳骨が飛んだ


「お妙さん! たくさんお菓子も持ってきました! だからこの俺にトリックをー!!」


そうこうしているうちに、今度はゴリラの着ぐるみが跳ね上がる。
「あ、局長」と呟くと彼の顔がすぐさま一変した。


「えええええっ?! ってその格好なにいいいぃぃっっ!??」


見事私とお妙さんの間に落下した局長は、また夢の世界へと旅立っていた。



なんやかんやでいつものように、みんなでワイワイとパーティーが始まった。
持ち合ったお菓子や軽食を食べて、あんまり親しみのないこの日を楽しんだ。
お妙さんが終始殴り飛ばして、外へと放り投げられていた局長以外は、の話だけど。
恐らく縁側で家主に断りなく落ち込んでいるであろう、自分の上司のもとへと向かった。


「きょーくちょ」

「ん、ああか」


ゴリラの着ぐるみを着たままの局長が、やっぱりそこで項垂れていた。
お妙さんの対応はいつも通りだから、きっと自分だけ楽しい場所にいられないから落ち込んでいるんだろう。


「これどーぞ」


私は、持ってきたサンドイッチを渡す。
涙目だった局長の顔が、ぱあっと明るくなってそれを受け取る。
すぐにモグモグと食べだす横顔に、思わず笑いが零れた。


「……それにしても、よくそんなリアルな着ぐるみ見つかりましたね」

「んあ? ああ、屯所の倉庫探したらあったんだよ……それに、の格好も……」

「お妙さんが用意してくれたんです」


月明かりに照らされている局長の頬が、なぜか赤い。
そんなにおかしな格好をしているのだろうか、と思わず自分の衣装を見る。

魔女っ子の格好なの、と嬉しそうに話すお妙さんから受け取った衣装。
ヒラヒラのミニスカートと、胸元が大きく開いたドレスのような衣装だ。オレンジや紫の配色がいかにもハロウィンらしい。
普段隊服しか着ないので、すごく新鮮だ。


「そんなに似合ってません?」

「いや、そんな事はないぞ! なんというか……目のやり場に困るというか……」

「え?」

「な、なんでもないっ!」


変な局長、と前を向けば月がぼんやりとこちらを見ていた。


「あ、局長。トリックオアトリート」

「へっ? ああ、お菓子か……あ、さっき全部チャイナっ子に取られたんだっけ」

「じゃあ悪戯ですねぇ」

にやにや、と擬音がつきそうなくらい意地悪な笑顔で言えば、若干怯えたような局長が身を引いた。
決まりですから逃げちゃダメですよー、と言うと不満そうな声を漏らす。


「局長、目瞑ってください」

「ええ?」


素直に閉じるその瞼に、そっとキスを落とした。










パーティーへようこそ!









驚き過ぎて固まってしまった局長を置いて、私はまたみんなの所へと戻っていく。
お菓子より、断然こっちの方がいいや、なんて思いながら。


Title by BLUE TEARS「ハロウィン5題」