「最後に、本当の気持ちが聞けただけで幸せです」


花嫁衣裳を着て、泣きながらそういうはすごく、綺麗だった。



真撰組と、天人の繋がりを強くするために行われた縁談。
縁談の主役に選ばれたのは、真撰組の紅一点であるだった。
正直な話、ほぼ強制的なそれに俺は彼女を参加させたくなくて
だから、嫌ならやめてもいいんだぞ? と言ったんだ。


「でも、受けないと後々大変な事になりますよね?」

「いや、大変な事なんてしょっちゅうだからな。今更だ!」


豪快に笑い飛ばしても、彼女は不安そうにしているだけだった。
嫌な予感が的中してしまったのは、それから数日後。
「縁談、受けます。無力な私にはそれくらいしか、できないから」と、涙を溜めた瞳ではそう告げた。

先方の天人は、人間とそう変わらないような男で
はその天人にとても気に入られた。

面白いくらいの早さで進んだ縁談。
気づけば真撰組の名簿から、の名前は消えていた。

屯所に届いた、招待状。
それには、天人の名前と名簿から消えたの名前が印刷されていた。
あの瞬間、破りたい衝動に駆られたのは、なぜだろう。

真撰組の代表として、俺とトシと総悟が挙式に参列する事になった。
当日、最後の逢瀬だととっつぁんに言われて、花嫁控え室に向かう。
トシや総悟も一緒に。


? 入るぞ」


一応のノックと、声をかける。
中から、久しぶりに聞く彼女の了承の声が聞こえた。

そこにいたのは、だけれども
あまりの変わりように、誰も声が出なかった。


「お久しぶりです。……変ですか? この格好」


違う男のために纏うその衣装は、確かにをより一層綺麗にしていて
想う人がいる筈の俺でさえ、生唾を飲み込むほど。

それぞれがそれぞれの言葉を残して、も涙ぐみながらそれを聞く。
そんな中、俺だけが何も言えなくて
いや、言えなかったんじゃなくて、言いたくなかったんだ。


「局長? お二人とも行っちゃいましたよ?」


気づけば、椅子に腰掛ける俺の眼前でが手を振っていた。


「お、おお!」

「どうかしました? 具合でも悪いんですか?」


オロオロと気を遣うところは以前と変わっていなくて。
もう、そんな彼女と接する事もないのか。
そう思うと、どうしてもやるせなかった。


「局長に言わなくちゃいけない事、あるんですよ」

「へ?」

「実は……局長のこと、好きだったんです」


照れたように笑う彼女はとても綺麗で
鈍器で俺を殴るような言葉は、どうしてか儚く脆い印象を受けた。


「でも、それも今日でお終いです。私は彼の奥さんになりますし、これからの人生、彼と歩んでいきます」

「……

「だから今言った事、忘れて下さい。それで……局長は他の人と幸せになって下さい」


どうしてそんな事を言うのに、彼女は涙を拭っているんだろう。
どうして俺はそんな彼女を、彼女の全部を呑み込むように抱き締めているんだろう。


「もう……戻れないのか?」

「……無理ですよ」

「それでも」

「最後に、本当の気持ちが聞けただけで幸せです」


言葉を遮って、彼女は部屋から出て行った。
するりと、腕の中から逃げていった体は、ひどく小さくて
無性に泣きたくなった。



挙式で、笑う彼女を見て、ついに涙が零れた。
それは気づくのに遅過ぎた俺の、本当の気持ちの弔いでもあった。










もう戻れない









Title by dream of butterfly「悲哀10のお題」