「うわああああああ、大変だああああああ!!!」


屯所内にそんなの声が響いたのは、平和な午後だった

市中見廻りに行っている者もいれば、屯所の道場で剣を振っている者もいる
鬼の副長、土方と言えば書類整理に追われていた

煙草のフィルターが千切れるのではないかというくらい噛み締め、ミスの多い書類を捌いていく
灰皿には多くの煙草の残骸が。畳の上にはくしゃくしゃになった紙クズがあった
そんな時に、沖田に次ぎ問題児と言われるの雄叫びが聞こえてきた
ついに土方の血管はぶち切れ、襖をスパーンと開いた


ー!!!! 何叫んでるんだああああ!! 煩えぞおお!!!」


視界にはいないものの、おおよそ見廻りを終えて屯所に戻ってきたのだろうと
屯所内に響く程、先程のの叫びに負けないくらい声を張り上げて土方は叫んだ
これで少々、本当に小さじ一くらいストレスが減ったが
苛々の限界突破をさせた元凶は、出てこない


ー!! 出て来いやああああー!!!」


その怒声にどこからともなく「ひいいいいい!」というの悲鳴が聞こえた
そして、しゅん、しゅん、と何かが素早く動く音が聞こえる
土方がそちらに目をやると、柱に隠れたがいた


「おいテメェ、何大声出して騒いでやがる、お前の頭の中はお祭状態なのか、ああん?」

「す、すみません……副長。でもこれには訳がありまして……」

「訳だあ? そりゃどんな訳だ」

「……怒らないで聞いてくれます?」


柱を握る白い小さな手が、ぎゅっと拳の形を作る
これはもしかして深刻な事なのかもしれない、と土方も少し冷静になる
「……話してみろ」そう言って柱に向かって言った


「見廻りも終わる頃、道端におじいさんが倒れてたんです。もちろん助けましたよ? そしたらお礼にってくれた物がありまして……」

「ほお」

「なんでも可愛くなる薬だとかで、試しにさっき飲んでみたんです」

「で?」

「……こんなんになってしまいました……うぅ」


柱からそっと出てきたは、普段の彼女とは違った
頭から茶色い耳と、同じく茶色い尻尾が生えていた
所謂、半獣状態である

白目を剥き、口から魂が出掛っている土方には掴み掛かった


「副長ー! 決してコスプレとかではないんです! 本当に薬のせいなんですうううう!」


上目使いで自分の胸元を掴み、涙目のは普段の三割増しで可愛らしく見えてしまう
ぐはっと何かを吐きそうになった土方は「わ、分かったから……離せ」と小さく呟く





お前それ可すぎだから!






それからすぐに耳と尻尾は消えたが、土方が与えられたダメージは結構大きかったらしい






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