※3Z設定




トシはどうせ今日も部活だろうから、一人で帰るついでにコンビにでも寄ろうかな。
そんな事を考えながら机の中からスマホを出す。
ピカピカと光るランプ。不在着信の表示に目がいく。
ロックを解除してタップすれば、、出てきた名前は土方十四郎。
驚いてリダイヤルをすれば二コールで聞こえる低い声。


「もしもし」

「トシ? 電話してくれたみたいなんだけど、どうかした?」

「いや、急に顧問が来れなくなったみたいで、今日部活がなくなったんだよ」


それで、一緒に帰ろうかと思ったんだけどよ

語尾が妙に弱かったのは、きっと照れてるせいだろう。
しかも、後ろで誰かがトシを冷やかす声が聞こえた。


「テメェらうるせえんだよ! ワリィ、校門の前で待っててくれるか?」

「うん、分かった」


通話を終了させてすぐに教科書を鞄に詰め込んだ。
ホームルームはとっくに終わっていて、教室に残っていたのは私を含めて数人で。
友達にバイバイ、とだけ告げて早足で教室を後にする。

逸る気持ちを抑えて階段を降りる。玄関で靴を履き替え、鞄から鏡を出した。
手櫛で少しぐちゃぐちゃになった髪を整え、目指すは校門。
見えた場所にはまだ誰もいない。

大きく揺れる肩を、ゆっくりと普段の動きに戻していく。
もう季節は秋なのに、走ったせいで額には薄っすら汗が滲んだ。

目の前を、何人もの生徒が過ぎていく。チラリと玄関を見たけど、まだ来る気配はない。
すると、ポケットの中が震える。見れば表示はまた土方十四郎で。


「もしもし」

「待たせて悪いな。もう校門にいんのか?」

「うん、いるよ」

「本当ワリィ、急いで行く」

「大丈夫だよ。後でね」


会話が終了した音を聞いて画面を見る。そこには見慣れたホーム画面。

他愛もない何度もした事のある会話なのに、そんな小さな事でも頬がにやけて胸の中に花が咲く。
私の履歴がそうであるように、トシの着信履歴が私の名前でいっぱいだといい。
そんな事を考えていたら、思わず画面にキスをしていた。
改めて頬の熱を感じながらも、通話をした後の携帯は少し温かい。





振り向けば、走ってきたのかさっきの私と同じく肩を揺らしているトシがいて。


「何ニヤニヤしてんだよ」

「んー? 何でもない」

「おかしなヤツ。待たせて悪かったな、行くぞ」

「うん」


当たり前に出された左手を握る。
さっきキスした画面よりも、うんと温かい手の平が右手を包む。





通信終了後の携帯にキス





Title by 恋したくなるお題「キスの詰め合わせ」