大体、第一印象からしてあり得なかった。
接客はまるでダメ。人の目を見ずに注文を聞こうとするし、返事もよく聞こえない。
品を持ってきても置き方は荒いし。
だから二度と来るつもりはなかった。
そのパフェを食べるまで。


「……美味い」

「は? 銀さんいきなり何言い出すんですか?」

「そうアル。銀ちゃんみたいなお子様味覚の奴が何を食べたって一緒アル」

「今なんか聞き逃せない言葉が聞こえたんだけど……。いや、とにかくお前らコレ食ってみろって」


そうやって俺は一口より半分少なめにパフェを掬い、新八の口元に持っていく。


「……いいです」

「え、何で、別に俺口の病気とか持ってないよ?」

「そうじゃなくって! 珍し過ぎるんですよ! あのケチな銀さんがためらいもなく人に物をあげるって行為が!」

「なっ……お前今の言葉かなり傷ついたぞおおおォォォ?!」


言いながら、勢いよく立ち上がった俺の足は見事なまでに、目の前にあったテーブルをひっくり返した。
大きな轟音が響いて、途端に聞こえた冷たい声。


「お客さん、他の方に迷惑なので静かにして下さい」


そちらの方に視線をやれば、厨房から顔を覗かせてるさっきの店員。
胸のプレートには、と書いてある。
その細い腕の中には大きな銀色のボウルがあった。


「なァ、店員さん」

「……はい」


呼べばそっけなく返事をし、俺達の席へとやってくる。


「このパフェ、誰が作ったの?」

「どうしてそんな質問を?」

「いや、あんまりにも美味くてよ? 気になった」


空になったグラスをスプーンで、叩けば高い音が響く。


「……美味しかったですか?」

「ああ、スッゲェ。生きてきて一番美味かった」


俺は前に向き直してそう告げた。


「ありがとうございます」


微笑んだその頬は桃色に染まって、半月の形の唇は綺麗な桜色。
きつかった瞳は、柔らかく形を変えて。


ああ、やっぱりかなりの上玉だな


と、ボソリ、呟いて俺は立ち上がった。


「おい、新八、神楽。帰るぞ」

「え、あ、はい」

「銀ちゃん、何か口元イヤらしいアル」

「バカヤロー、男はいつだってイヤらしいんだよ」


「レジどこ?」とだけ聞いて、指さされた方向に歩き出す。
俺らの後ろにくっついてきた女は、当たり前のようにレジに入り、会計をする。
柔らかくなった雰囲気はもうすでに冷たくて。


「ごっそさん」

「またのお越しをお待ちしてます」


自動ドアを率先して潜る新八達の後につき、糖分許可日はここ通いだな、と心の中で決める。
冷たい雰囲気が溶ければ、そこにあるのはただ温かい女の顔。
もう一度見たくて、笑って欲しくて。ついでにあの美味いパフェが食いたくて。





シュガー中毒