不意をついて誰かに呼ばれた気がしたから、寝巻きのまま外に出た。
肌寒い風が吹く中、あてもなく歩き出す。
いくら江戸でも、真夜中となれば人どころか猫さえいなくて。
浮いたような感覚で、俺は歩いた。
砂利の擦れる音が聞こえるだけの道を歩いて、別に用事もなく歩く。
はたから見たらきっと怪しい奴でしかない。
多串とか、ドSの星の王子とか、ゴリラとかに見つかったら、多分なんやかんやでしょっぴかれるだろう。
自分の奏でる砂利の音とは、また別の音が聞こえたのは、それからすぐの事。
「あれ、銀ちゃん?」
小さく千切ったように聞こえてきた声は、ずいぶん遠くからのもので。
前方、かなり遠くの方。目をこらして見てみれば、誰かが俺に向かって手を振っている。
次第にその人影が大きくなって、目に入ったのは、嬉しそうに笑うだった。
「どうしたの? こんな夜中に」
「なんとなく目ェ覚めたから、散歩してたんだよ。そういうこそ、何やってんの?」
「全然寝られなくて、明日の朝ご飯買いに行くついでに、ぶらぶらしてたの」
それじゃあ、オメー俺と一緒じゃねえか、と言うと、そうだねぇ、お揃いだ、と屈託なく笑う。
の、その笑顔にどれだけこっちが心拍数上げられるかも知らずに。
「……本当はね、会えればいいなぁ、って思いながら外に出たんだ」
「あ? 誰に?」
「銀ちゃんに。だから今、会えてすごい嬉しい」
こいつの屈託のない笑顔が好きだ。スゲェ好きだ。
だけど、今こうして目の前笑っているこの笑顔は、確かに屈託ないが、同時に触れたら泣き出してしまいそうな程で。
不安でパンパンに膨れた風船みたいなを、衝動だけで抱き締めていた。
「……銀ちゃん?」
「文句、苦情などは一切受け付けませーん」
身長差のお陰で、の体全部を包み込む事に成功した。
最初は驚いて体が固まっていたけど、だんだんそれも柔らかくなってきて。
気づいた時には震えていた。
「仕事、うまくいかなくてね」
「どやされたか?」
「ううん、私がミスばっかりしてる」
向いてないのかな、やっぱり。好きだけじゃ、ダメなのかな
そう震えた声はもう泣いていた。
「好きだけじゃ、やっていけない時もある」
「……うん」
「でも、好きだからこそ頑張れるもんだろ?」
ぽんぽん、との小さな頭を撫でたら、うんうんと頷いている。
胸元がやけに湿ってるなァ、なんてワザとらしく呟いたら「今度パフェ奢るね」とくぐもった声が聞こえた。
後日、町中であった多串にが最近、妙に活き活きしている事を聞いた。
この前も新聞で「お手柄! 新米女隊士!」なんて取り上げられていて。
「俺達よりも小さいあいつが頑張ってんだ、お前らもしっかりやれよ!」
屯所の前を通りかかったら、そう言うゴリラと何人かの隊士が見える。
その中に照れ臭そうに笑うを見つけて、手をあげた。
その日の夜のファミレスで、俺とがパフェを食べてるところを見られたのは、また別の話。
Starlet at dead of night.
企画サイト「Midnight dreams」様に提出した作品です
Title by CORNELIA