たとえば、その人の顔を思い浮かべながら作る料理は、いつもよりすこしおいしい気がする
たまたま寄ったお店で、似合いそうなものを見つけるとつい買ってしまう
喜ぶ顔が見たくて。幸せだよって、言ってほしくて
お返しなんていらない。ただ笑ってくれるのが嬉しい




仕事終わりに、夕飯の材料を買っていつもの所に向かう
階段を上って戸を叩く前に、それは横に引かれた
顔を表したのは、新八くんと神楽ちゃんだった


「あ、さん。こんばんは」

「こんばんは」

「僕、今日はもう帰りますね。神楽ちゃんも連れて行きます」

「姉御とお泊りの約束したアル!」

「そっか。楽しんできてね」


元気よく帰っていくふたりを見届けてから、中に入る
軽い足取りで応接間に行けば、机に脚を乗せて愛読書を読みふける彼がいた


「銀時、ただいま」

「おう、おかえり」


顔を上げて、にかっと笑う
「今日の夕飯は?」と問われて「かに玉」と返せば嬉しそうな顔


「デザートはプリンにしてみました」

「プリンもいいけど、俺はの方が」

「何言ってんだか」


笑って流すと「あながち冗談でもねェんだけど」とふてくされる
「考えておく」と返すと「まじ?」と上ずった声
それがおかしくて、またクスリと笑ってしまう


買ってきたものの中で、必要なものは出しておく。他のものを冷蔵庫にしまって、卵を取り出す
カニカマを割いて、溶いた卵に入れる。中華だしも入れて、温めたフライパンに流し込む
卵の焼ける匂いの裏に、ほんのり中華の匂い。今日も上出来だ

居間のこたつの上に、ほかほかのかに玉と、ほうれん草のごま和え、みそ汁とごはんを持ってくる
読書は終わったらしく、のっそりとこたつに入る彼
温かくなってきたからこたつに電源は入っていない


「いつもあんがとな」

「いーえ」


礼は欠かさない。だらしなく見えて、意外と律儀なところだ
ふたり揃って「いただきます」をして、食事を始める


「ん。うまい」

「ふふ」


かに玉をいっぱいにほおばって、お褒めの言葉をくれる
なんの気なしに出た言葉が嬉しくて、またレパートリーを増やそうと思う


「今日、仕事どうだった?」

「んー、可もなく不可もなくって感じかな」

「ほー」

「ジャンプは新しい連載があったでしょ? どうだった?」

「結構おもしれェ」


テレビをつけた時程うるさくないけれど、ぽつりぽつりと続く会話はとりとめもない
仕事、面白い漫画の事、一緒にいなかった時にあった事を、伝え合う
そうするとぼんやり、ああ今日はこんな感じだったのかなって分かる
自分がいなかった時でさえ、彼の時間はいとおしい

あっという間に夕飯を平らげて、食器を一緒に台所まで運ぶ
洗い始める私に「風呂入ってくる」と告げて、脱衣所に向かう背中を見送った

食器洗いを終えて、銀時が出てくるまでパラパラとジャンプをめくる
少しすると甚平を着て、肩からタオルを下げた彼が戻ってきた
手にはドライヤーを持っている
銀時がソファに座って、その後ろに立つ
ドライヤーを受け取って、コンセントにさしてスイッチを入れる


「熱かったら言ってね」

「おう」


温風を、まんべんなく髪にあてる
しっとりしていた銀髪が、次第にふわふわになってくる
言葉にはしないけれど、気持ちよさそうに目をつむっているのが嬉しくて
指先も柔らかくなる


「はいおわり。私もお風呂入ってくるね」


ドライヤーを彼の横に置いて、脱衣所に向かった


お風呂から上がると、テレビの音がした
頭からタオルを下げたまま、音の方へと歩く
私に気がついた銀時が、自分の横をぽんぽんと叩く
座れば、今度は彼がドライヤーを持って私の後ろに立った
テレビの音にドライヤーの音がかぶる

頭皮を撫でて、髪を梳く指先はまるで壊れ物を扱うみたいにやさしい
こんなにやさしく触れられるのは、私だけの特権みたいで
どんな顔して、こんなやさしい指先をしているんだろうと気になる
少し後ろを向くと、とろりとした目にちょっとだけ上がっている口の両端
本人ですら気づいていなさそうな、微笑みがそこにあって、心臓が跳ね上がる
バレないようにまた前を向いて、脳裏にあの表情を焼きつけた


テレビを見ながらプリンを食べて、それから一緒に歯を磨いて
寝室に行って、布団を敷く
銀時がひとりで寝ていた時の布団は神楽ちゃんにあげて、ふたりで寝られる大きな布団を買った


「電気消すぞー」

「うん」


ぱち、と音がして暗闇に支配される
ごそごそ、と隣にぬくもりはやってきた
足を絡め合って、向かい合う

一日の終わりを、彼の目を見ながら終われる事がこの上なく幸せで
幸せは笑みになって出てくる


「なに笑ってんだよ」

「幸せだなぁって思って」

「あっそ」


そっけない返事は、照れているから
それでも絡んだ足とか、いつの間にか繋いでいる手を離さないのは、やっぱり愛されている証拠なんだろう
手に力を込めれば、握り返される


「……大好き」

「え? なになに、ちょっと今耳遠かったわ、もっかい言ってくんない?」

「えー聞こえてたでしょ」

「聞こえてないって、な、だからもう一回」


いじわるな笑顔。にやにやしながら耳を私の口元に近づける
頬に集まる熱を無視なんてできないけど、しょうがないからもう一度ささやく
今度は、言葉を変えて


「愛してるよ」


びっくりしたような顔をして、それから普段めったに見せないような真面目な顔をして、覆い被される
それから、一度口づけが降ってきて、近い距離でささやかれた


「多分、俺の方が愛してっから」















銀魂企画「バクチダンサーズ」様に提出させて頂いた作品です