「本当にごめんね」

「おう、気にすんな」

「帰ってきたらケーキ食べようね」

「ああ」


そう言って、会社へと向かうの背中を、銀時はずっと眺めていた。

本日、10月10日は彼の誕生日だ。はりきってお祝いをすると言っていただのだが
突然会社に出勤しなくてはいけない事になり、渋々ながら家を出て行ったのだ。

頭を掻きながら「もう一眠りすっかな」とぼやく銀時は、リビングのテーブルの上に一通の手紙が置いてある事に気がつく。
淡いブラウン色の、可愛らしい封筒に入った手紙。
封はされていなくて、名前を見れば「より、銀時へ」と書いてある。
がさがさと手紙を開ける。中には封筒と同じ色をした便箋が入っていた。


銀時へ

これから、手紙の指示に従ってね。
最後にはすごいプレゼントが待ってるよ。

ではまず初めに。
真選組の一番偉い人から、次の指示書を貰ってね。


手紙はそこで終わっていた。内容に、首を傾げる銀時。
いつの間にこんな物を用意したのか、不思議だった。
だか幸いにも一日暇な今日、彼女が準備したサプライズに乗っかるのも悪くないか、と
銀時はのそりと立ち上がり玄関に足を運ぶ。
ブーツを履いて、外へと出て行く。


第一の目的地へと足を進める。
屯所の前に着けば、すでに近藤が門の前で待っていた。
手にはあの手紙を持って。


「おう銀時! お前今日誕生日なんだってな!」

「そうだけど」

「おめでとう! いやあお前愛されてるな! ……羨ましいよ」

「あー……手紙くれる?」

「はい……」


うじうじと落ち込んでしまった近藤を放っておいて、銀時は二枚目の手紙を読む。
次の指示は「馴染みの居酒屋に行って、好きなお酒一本をのツケで買ってくる事」と書いてあった。
一体自分に何をさせたいのか、目的が見えてこない指示に面倒くさがりの顔がひょこっと覗いた。
けれども、自分の好きなお酒、とくれば行かないわけはない。

今だ落ち込む近藤を適当に慰めて、銀時は次の目的地に向かった。


居酒屋に着くと、昼前だというのにすでに店主が店を開いていた。


「よ、銀さん! 誕生日おめっとさん! なんか軽く食ってく?」

「ああ、じゃあもらう」

「それで、酒はどれを選ぶんだい?」

「んーじゃあ、あれで」

それはとふたりで飲む酒で。口当たりのいい飲みやすさが、ふたりのお気に入りだ。


「そう言えば、なんで俺の誕生日知ってんの?」

ちゃんに前もって言われたからな! はいよ、おまち」


出されたのは、白身魚のから揚げに、味噌汁とほかほかのご飯。
ちょうどまだ昼食を採っていなかった銀時は、ありがたいとばかりに箸を進めた。

昼食も終わり、店主は銀時に手紙を渡す。
「ごちそうさん」と立ち上がり、手紙と酒を持って店を後にする。


「こんな感じでやってけばいいのか?」


満たされた腹は、休憩を求めていたが、あとどれくらい指示があるのか分からない。
ぼりぼりと後頭部を掻いて、歩き出した。


***


それから色んな場所をひとりで巡らされた。
花屋では花籠を受け取り、洋装店では箱を渡された。
行く先々で「誕生日おめでとう!」と言われ、なんだかくすぐったいような、それでもどこか温かい気持ちが湧きあがった。

思い返してみれば、目的地のほとんどがふたりで来た事のある場所で
そこにいる人達におめでとうを言われる度に、との思い出がよみがえる。
一緒に笑い合って観た映画だったり、喧嘩をした喫茶店だったり。
いい思い出も悪い思い出も、今を形成している愛おしいものだという事を、再認識させられる。

最後の場所で手紙を貰うと、中には「家に帰ってきて。なるべくゆっくりね」と書いてあった。
辺りを見渡せば、もう夜もとっぷりと暮れている。
ぶらぶらと、適当に寄り道をしながら帰路に着いた。


万屋に着き、二階を見上げれば、誰もいない筈の家に電気が灯っていた。
十中八九だろう、と階段を昇りながら、気がつけば鼻から歌が漏れている。
玄関の前に立ち、少し髪をいじってから玄関の扉を引く。


「ういー銀さんのお帰りだよー」

「おかえりなさい」


部屋着ではなく、少し気合の入った服装で銀時を迎え入れた
荷物を受け取り、奥へと歩いて行く。その後を銀時が追う。

リビングは、昼の時から様変わりしていた。
綺麗に掃除がされ、壁には色とりどりの輪っかが飾られていて、所々では紙の花も飾ってある。
糖分の書には「銀時 Happy Birth Day!!」と豪華に描かれている。

机の上には、大きなショートケーキが真ん中に席を構えていて
その周りには、銀時の好きな物ばかりが所狭しと並んでいた。
コップも磨かれており、何もかも準備万端だ。


「……スゲーな。お前、これひとりでやったのか?」

「うん。驚きと喜びを感じてもらいたくて」

「テンション上がるな」


そしては、銀時が洋装店で受け取った箱を、彼に渡す。
すぐに開けて、と言われ、丁寧に包装紙をはがし箱を開けた。
中には、お揃いのブーツとベルトが入っている。


「これなら、普段でも使えるかなって」

「お前マジか! これマジか!」


おもちゃを貰った子どものような反応を見せる銀時に、は笑みを零した。


「プレゼントはこれだけじゃなくて、もうひとつ、手紙があるの」

「手紙ってこれか?」

「うん」

は銀時が掲げた、十数枚の指示が書いてある手紙をそっと手の中に収めた。
そして、銀時がいつも座っている椅子の前に行き、テーブルの上に一枚ずつ並べ始める。
全てを並べ終えると、彼女は銀時を呼んだ。


「これ、一枚目裏返してみて」

「ん?」


裏返すとそこには、愛、の文字が書いてあった。
次も、と促され、横並びの手紙をどんどん裏返していく銀時。
全てを裏返し終えると、それはひとつの文になった。


愛してる。ずっと一緒にいようね。


文字を認識した瞬間、銀時はを勢いよく抱き締めた。
彼の頬は赤く、それを見せないために抱き締めたのだ。
そして。溢れんばかりの愛情を受け取って、どうしようもない彼は
ただ一言「俺も、愛してる」とだけ囁いた。


「銀時、誕生日おめでとう」






















それは甘い甘い、やさしい手紙。


素敵企画「BIRTHDAY 糖 YOU」様に投稿した作品です。