どちらも報われません。大丈夫な方はどうぞ










どうしようもないくらい好きで、好きで、しょうがなかった
心の中に、敵わない程愛されている人がいたとしても
たとえ、その瞳が私の後ろを見ていたとしても
でも思っていたよりも私の心は、弱かったみたいだ




「お客さん、もう飲むのやめた方がいいよ」

「うるさいなぁ、おじさん、もう一杯おかわり」


呆れたような顔をした店主が、カウンターの中に屈んで酒を取り出す
目の前に置いてあるグラスに並々と注がれる液体
瓶を離してすぐに、それを飲み干した

隣の男は、何も言わずに私の奢りで、何杯目か分からないパフェを食べている
傍らには同じように、酒の入ったグラス

「もうその辺にして、そろそろ帰るぞ。送ってくからよ」

「何よ、私の酒には付き合えないわけ?」

「そうじゃねえよ……ったく、これだから酔っ払いは」

「酔ってなんかいませーん」

へらへらと笑って、彼の肩を叩く
イテェ、と不満そうな声を漏らすけれど、向けられる眼差しは心配の色一色で
不器用な奴だ、とまだ酔っていない脳の端で思った

「よし、なら私の部屋で飲み直しだ! おじさんお勘定!」

隊服から財布を取り出して、何枚かのお札をテーブルに置く
お釣りはいいから! と立ち上がると、覚束ない足元

「ほら、掴まれ」

そう言って腕を差し出される。私は一瞬だけ、気づかれない程の短さで躊躇って
それからすぐその腕に、自分の腕を絡めた
体重の殆どを預けて、ふたりで歩き出す





自宅に着いて、ダイニングを通って寝室に向かった
ふわふわとする頭はぐらつき、腕を離してベッドへと倒れ込む
後ろの方で溜息の音がした

「酒は飲んでも飲まれないのが常識だろうが」

「んふー」

「聞いてんのかこら」

屈んで、私と目線を合わせる銀時
思いの外近い距離に、瞬きをする

「……ありがと、ね。いつも付き合ってくれて」

その言葉に返事はなかった


本当なら、隣にいるのは銀時の筈ではなくて
ずっと、ずっと好きだった人―トシ―がいる筈で

トシに忘れられない人がいるのは、知っていた
それでも一緒にいたくて、少しでも幸せでいて欲しくて、隣にいる事を望んだ私
ぶっきら棒だけど優しい彼は、私のことを拒否するでもなく、隣に置いてくれた

けれども、距離が縮まる事はいつになってもなくって
名前を呼ぶ事も、頬に触れてくれる事もなく
時折寂しそうな顔をして、私を見るから
我侭な私はいつしか、それに耐えられなくなっていた
最初は、それでも構わないって思っていたのに

狡い私は隣からいなくなる事も出来なくて、けれど私を見てくれないトシが淋しくて
こうして今日みたいに、馴染みの銀時と一緒に酒の席を共にしてもらっていた

他にもたくさん人はいるのに、銀時を選んでしまったのは
どこか彼に似ている部分があるからなのか
そうだとしたら、よっぽどイカれているんだろうと思う


さらりと、前髪を梳かれる
その優しい手に、思わず目を閉じた
頭を撫でるその手が、触れられた事もないのに
まるで、トシのもののように感じられて
鼻の奥がツンとして、目が熱くなっていく

手の動きが止まると、唇の前で浅い呼吸を感じた
ゆっくりと目を開けると、ほぼゼロ距離に銀時がいる

「……泣いてんじゃねえよ」

「泣いて、ない」

震える声が惨めだった
瞼が手で覆われる。少しカサついた銀時の唇が、私の唇に触れた


「俺のことは見なくていい。アイツのことでも考えてればいいからよ……」


どうして彼が、懇願するような声で言うんだろう
タオルで目を隠されて、暗闇が視界を支配した

ガラス細工を扱うように、丁寧に服を脱がされる
外気に触れて冷たさを感じる。その間、きっと彼も服を脱いでいるんだろう、衣擦れの音がした

何も見えない
瞼の裏、暗い世界にぽつんとトシだけが立っていた
その目は寂しそうな目でもなくて、ただまっすぐに私を見てくれている
だんだんと彼が近づいて、頬に触れる
唇が重なって、舌が輪郭をなぞっていく

やわやわと揉まれ形を変える胸
存在を主張するそこを摘まられれば、背筋が張る
ぴちゃりと何かが跳ねる音。温い温度で包まれた

「ふぁ……っん」

声が漏れないように右手の甲を口に宛がう
そっと、その手を外されて、声を出すよう無言の訴えかけだった

胸の真ん中を舐め上げられ、舌がそのまま下に向かっていく
太腿を掴んで、足を開かれる
羞恥で頬に熱が集まって、思わず足に力を入れるけど
やんわりとそれを制されて、秘所にざらつくそれが絡みつく

「あん! やあ、そこはっ、だめっ……!」

シーツを強く握り、襲い来る快感の波に呑まれないよう必死で
舌先を丸めて、出し入れを繰り返される
その度に腰がひくつく
奥の方が疼いてしょうがない

そこから顔が上げられて、耳の横に手が置かれる
ギシギシとベッドのスプリングが揺れる音。息遣いだけが伝わってきて
額、鼻の頭、頬に啄むようなキスが落とされて、それから口づけられる
舌と舌を重ねて、唾液を交換するようなキス
自然と腕が上がり、首に回した

「最後まで……して……?」

果たしてその言葉は、一体誰に向かって言ったんだろう
瞼の裏の彼へなのか、目の前にいる筈の彼なのか

息を呑む音がして、秘所に熱が籠る
割り込むように、少しずつ押し広げられていく
久しぶりの感覚に、呼吸ができなくて

「んん……、はあ、ん!」

全てが中に入ると、強く抱き締められた

鼻腔に届く筈のない、煙草の香り
目隠しをしているタオルに、じわじわと水分が染み込んでいく

「……トシ……」

呟いた彼が、瞼の裏で笑った

肉と肉のぶつかる音、荒い呼吸音だけが部屋の中に響く
自分のあられもない嬌声が、部屋の中で反射している

「あ、あ、んあ……! もう、イキそ……っ!」

「……っ……」

聞こえた唯一の声は、ぼやけていた

快感が全身を支配しようとする
それにどうしてか、最後まで抗おうとしている自分がいて

太腿を持ち上げられ、奥まで貫かれる
結局快感には勝てなくて、何度目かの衝動で呆気なく果ててしまって
それからすぐに、中でそれが大きく脈打ち引き抜かれる
お腹の上に、熱い何かがかかるのを感じた



目隠しを外され、そこには暗闇の中泣きそうな顔をした銀時がいた
ぼやけた頭に言葉は浮かばなくて、ただじっと彼を見つめる

「……悪い」

手を伸ばそうとしたけれど、その手が私に触れる事はなかった

瞬きをする。そして、目を閉じた
瞼の裏では変わらずにトシが、笑っていた