私何にも悪くない。
そうだ、私は悪くない。だっていつも通り過ごしていたんだから。
悪いのは今目の前で、私を押し倒した挙句、欲情している、この阿呆野郎だ。


「……銀時君、いい加減にしないとこの優しいさんも、マッハな勢いで怒りますよ?」

「怒りたいのはこっちだってんだ。、今は黙ってヤられろ」


なんて言葉使いが悪いのでしょうか。そんな事を考えている間も、銀時の手はまるで魔法をかけられたみたいに
するすると着物を一枚、また一枚と剥がしていく。

なんで、こんな昼間っから。
しかも冷たく、硬い床の上でイチャこかなきゃいけないんだ。
ああ、テーブルの上のアイスの寿命が、刻々と近づいていく。


「大体、昨日の夜も好き放題したじゃんか」

「それとこれとはまた別の話だよ。ほら、たくさん食べてもデザートは別腹っしょ?」

「それこそ関係ないからね。とにかく離せ」


言ったら、やなこった、って顔を近づけられて。
そのままキスされた。ちくしょう、キスに弱いの知っててやってるな。
黙ってれば、むしろ動きさえしなければ、すごくいい男なのに。
銀時ときたら、口を開けば汚い言葉のオンパレード、動けば下品な行動の大行列。
桂の爪の垢どころか、本人丸ごと飲ませたいよ。


「っは……、ちょ、本当にマジ勘弁して下さい」

「敬語使うなってんだ馬鹿ヤロー。萎えるだろ」

「萎えて下さい。もうむしろ一生使いものにならないくらいに萎えて下さい」

「それじゃあと俺の可愛い子ども作りに励めないでしょうがあああァァァっっ!!」

「うっせコラ!! てか、本当になんでいきなりお猿さんになっちゃったの?」

がエロいからですー。銀さんは悪くないですー」


唇を尖らせて、どっかの子どもみたいにそう言う銀時に、はぁ? とまぬけな声しか返せなかった。
自慢じゃないけど、色気とは程遠い私のどこにエロ要素があるのか聞きたい。
いや、今聞いてやる。


「私のどこがエロいのか言ってみろ。ああ? どこにエロ要素がある」

「柄悪! も黙ってれば美人なのによー」

「そう言う銀時もね。もう剥製にでもなってしまえ」

「本気でへこむぞコルァッ!」

「へこむんだったら違う所へこましてよ。で、質問の答えは?」

「あのなァ……愛しちゃった相手が目の前でスプーン舐め回しながらバニラアイス食ってたら、誰だって欲情するからね!!」


一息で言い切った銀時は、肩で息をしていた。
これくらいで息が切れるようじゃ、こいつもオジサンの仲間入りだな。
今日から銀時オジサンと呼んでやろうか。
てか、今こやつ何と言い放った。
「愛しちゃった相手が目の前でスプーン舐め回しながらバニラアイス食ってたら、誰だって欲情するからね!!」だと?


「私がいつスプーンを舐め回した!?」

「お前気づいてないのかよ?! 狙ってやってたんじゃないのかよおおおォォォっっ!!」

「何を狙ってだ!! てか、普通にアイスを食べてただけです!!」


そう言い切ると、銀時はガッと起き上がって、机の上に置き去りにされた、アイスとスプーンを取り。
私の目の前に突き出した。


「食え。今すぐ俺の目の前で食え」

「……何、その鬼気迫った言い方」

「いいから食べなさいいいィィィっっっ!!」


もう、目が、おかしい。
と言うか、人格変わってるでしょう、この人。
言う通りにしないと、死の危険に晒されるような気がしたので、渋々、いや、かなり嫌だったけれども
差し出されたアイスクリームを食べ始める。

「たく、普通に食べてるってのに……」


一口すくって口に運ぶ。
ほとんど液状化しているそれは、うまく口の中に収まってくれなくて。
しょうがないから、零れないように舌で唇の周りを舐める。
スプーンの裏側についた、愛しきアイスクリームの残骸を食べるべく
小さい頃から治せと言われ続けたけれども、結局治らなかったいつもの癖をしてしまう。
あっと言う間になくなってしまったアイスクリーム。
そう言えば冷蔵庫の中に、もう一個あった気がする。
考えながら、遥か遠くに存在する冷蔵庫を見た。

ふと、目の前に銀時がいるのを思い出して、前に目をやる。


「おわっ! なんで鼻血なんか出してるのよ!」


目の前の銀時オジサンは、ご丁寧に両鼻から致死量に至るんではないかと心配してしまう程、大量の血液を噴射させていた。
いっそ、そのまま天に召されてしまえ。


「……お前、外でアイス食べるの禁止な」

「はぁっ?! 夏の暑い日に、太陽の下で食べるアイスの極上さを知らないの?!」

「……無限歩譲って、シャーベットはいいとしても、特にバニラは食べるな」

「暑い時に食べる、特濃のバニラがいいんでしょうが!」


そんな感じで、ギャーギャー喚いてたら。
バニラなんかよりも、もっともっと甘過ぎる銀時の唇で塞がれて。
「甘い」なんて囁かれて。

ズルイ、ズルいんだよ。
そう言われたら、黙って目を閉じるしかないじゃない。

暖冬も過ぎて、もう春が近くなってきた午後の運動は、軽く汗ばむくらいだった。





クレイジーアイスクリーム