蛇柄のジャケットの下は素肌で、黒の革パンを履きこなして。黒の革手袋に包まれた指先が、本当は優しい事を知っている。
普段はそんなちょっと変わった格好をしている彼が、お正月だからと着てきた着物。
男性なので、いわゆる黒紋付羽織袴。
見慣れないその格好に、黙ってしまう私に、やや心配そうな顔をする真島さん。


「やっぱおかしいか?」

「う、ううん……そんな事、ない、です」

「ならなんで黙ってるん?」


超絶似合ってて、あまりの格好よさに何も言えないんです、とは言えなかった。

桐生さんよりも少し高い長身に、細身だけれど鍛えられた体。
それらを包む羽織袴が、あまりにも似合い過ぎていて。
それとは反対に、私は一体なんなんだろう、と思った。

初詣に行くからと言われて、寒いのが苦手な私はこれでもかってくらいに、着込んできた。
もこもこしていて動きづらいし、真島さんの隣にいると、とてもちぐはぐだ。


「これなら、無理してでも着物を着てくればよかったかなぁ……」

「お、ちゃん着物着るん?」

「いや、今からじゃ無理で」

「よっしゃ俺が選んだるわ!」


そう言って私の手を強引に引っ張っていく。そうして黒塗りのお車に乗せられて、ぶーんとどこかに連れて行かれる。


***


「派手、過ぎませんか……それに、似合ってないでしょう?」

「そないな事あらへん! めちゃめちゃ似合ってるで〜!」


真っ赤な生地に、白い小ぶりの花が散らされた柄の着物をまとった私に、真島さんは賞賛の言葉を贈ってくれた。
照れ臭くて、頬を掻いていたらぱしゃりと何かの音が聞こえる。
見れば真島さんが自分の携帯電話で、私の写真を撮っているではないか!


「ああ、ああダメです! 写真は!」

「何がダメなん? 待ち受けにするんや!」

「待ち受けとかさらにダメです!」


慌てて、真島さんから携帯電話を取り上げようとするけれど、普段とは違う格好でとても動きづらい。
足を取られて転びそうになる。思わず目を閉じて受け身の体制を取るけれど、痛みはやって来ない。
目を開ければ、私を抱える真島さんの顔がドアップで映り込んできた。


「大丈夫か?」

「は、はい……すみません」


赤く、熱くなる顔。それをまじまじと見られて、さらに熱くなる。


「あかんのう」

「え?」

「着物姿。よう似合っとるのに、脱がしたくなるわ……」


耳元でそう囁かれて、くらくらと眩暈がする感覚が襲ってくる。
ぎゅっと、羽織を握ると悪戯っぽい笑顔を浮かべて、私を立たせてくれる真島さん。


「ほな、脱がすのは後にして、写真撮ろうや!」


とんでも発言をさらりとされた気がするが、それは後で問うとしよう。
お店のお姉さんに案内されて、撮影部屋に通される。
そこに立って下さい、と指示されて、言われた通りにする。

ふたりで、カメラのレンズを見て笑う。
ぱしゃりと音とフラッシュが光って、お姉さんが画面を確認している。


「いい写真になってるといいんですけど」

「なあちゃん」

「はい?」

「俺が今まで見てきた女で、一番着物似合っとるで」


そう言われて肩を抱かれ、額にキスを落とされた。
私も、真島さん程格好いいと思う人はいないですよ、の言葉はあえて呑み込んだ。






着物姿にせられて





Title by 瑠璃「春夏秋冬の恋20題 冬の恋」