「本当は、飾りつけとかもしたかったんですけど」
そう言いながら、ケーキを切り分けるの顔は、ずっと笑顔だ。
手始めにシャンパンを飲んで、サラダや骨つきチキンやらを食べて、そこそこに腹は膨れている。
それでも、嬉しそうに冷蔵庫からケーキを持ってきた彼女に、いらないとは言えなくて。
「食事だけで充分や。これ以上気分盛り上げてどないすんねん」
「いいじゃないですか、一年に一回なんだから」
自分のケーキにはマジパンのトナカイを、龍司のケーキにはサンタクロースを乗せる。
「ただでさえケーキだけで甘いのに、こんなんいらんわ」
「ええー、せっかくサンタさんあげたのに。食べてくれなきゃプレゼントはなしです」
「なんやて……」
可愛らしいサンタと睨めっこをする。
からフォークを渡されて、すぐにサンタの頭にそれを刺した。
非難がましい目で見られるが、素知らぬフリをして一口で平らげる。
「あま……」
「紅茶ありますよ」
出された琥珀色の液体を、一気に流し込む。
幾分か甘さは消えて。気づけばはすでにケーキの半分を食べていた。
柔らかいスポンジにフォークを押しつけて、一口大に切る。
それをフォークに乗せて口に運ぶ。
が言うには、このケーキ屋は半年前から予約を入れないと食べられない店らしく
どんなものかと思いながら咀嚼をする。
上質な生クリームに包まれたスポンジは、ほろほろと口の中で溶けていく。
甘過ぎずしつこくないクリームに、苺の酸味がいいアクセントになっている。
「……うまいな」
「でしょ? 頑張って予約した甲斐があります」
ふふん、と胸を張るの口元には、白いクリームがついている。
それに気づいた龍司は、そっと指先でクリームを拭ってやる。
「ついてんで」
「わ、恥ずかしい……ありがとうございます」
頬を赤らめる彼女を可愛らしいと思いながら、ケーキを食べ進める。
「やっぱり、来年は部屋の飾りつけもしようと思います」
ぐ、と拳を握るに、龍司はわざと目を合わさずに言った。
「別に、お前がいるだけでわしはそれでええんやけどな」
「え……」
「なんでもあらへん」
お互いに頬を染めて、目が合わせられなかった。
君がいる、それ以上の準備はいらない
Title by Fortune Fate「ふたりの聖夜に5題」