彼女の周りには、よく人が集まる。それはそれは老若男女問わずに。
それが誇らしいような、憎らしいような、複雑な心境で。
時々、周りの人を優先し過ぎているような気がする。
恋人である俺の立場って、なんだろう。
「秋山さん」
愛おしい声に呼ばれて、惰眠を貪っていた俺は、瞼を上げる。
蛍光灯の急な眩しさに目を細めながら、起き上る。
ソファで横になっていたから、体のあちこちが痛い。
「来てたの」
「うん、花ちゃんに呼ばれて」
俺に会いに来た訳じゃないんだ。
その一言を呑み込んだ。
ニコニコ笑顔の彼女。きっと、俺の黒い部分なんて露程にも知らないだろう。
彼女といるようになって、自分の知らなくてよかったところを、知る羽目になってしまった。
醜い嫉妬心とか、つまらない焦燥感とか、勝手な独占欲とか。
今までは見て見ぬフリができていたのに、それをさせてくれないのが彼女の魅力でもあるのかもしれないけれど。
色んな事があった俺の人生、できうる限りはスマートに過ごしてきたつもりだけど、彼女の前だとそうもいかない。
ソファに座る俺の横に、ちょこんとお行儀よく座る彼女。
じっと、その横顔を見つめると、俺の視線に気がついたのか、こちらを見る。
その目に映るのが、生涯俺だけなら、どんなによかったか。
彼女と俺の周りには、いい男が多過ぎる。
いい男っていうのは、容姿とかじゃなくて、生き方やその考え方であって。
いつ、その人達に惹かれてひらひらと、蝶々のように飛んで行ってしまうのでは、と気が気じゃない。
「ねえねえ」
「んー?」
「どうやったらさ、君は俺だけを見てくれる?」
唐突な質問に、彼女がきょとんとした表情を浮かべる。
「……不安、なんだよね」
「不安?」
「そ。君はとても魅力的だからさ」
途中で茶化してしまうのは、俺の悪い癖なのかもしれない。
それでも、聞かずにはいられなかったのは、全部彼女のせい。
「……私だって、不安だよ」
「え?」
「秋山さん、格好いいから。それに、仕事柄しょうがないけど……色んな女性と知り合いだし」
「えーっと……」
「いつか、私を放っておいて、他の女の人のところに行っちゃうんじゃないかって」
そう言って潤み始める彼女の目には、今、確かに俺しか映っていない。
「私は、秋山さんしか見てないよ。だから、秋山さんも、私だけ見ていて」
そう言って俺の胸に飛び込んできた彼女を、抱き締める。
まさか、同じ事で悩んでいたなんて、思いもしなくて。
緩む頬を見たら、君は怒るかな。