人なんてこんなに溢れてるのに、いとも容易く見つけてしまうのは
そうきっと。



島に到着して、すぐに船を降りたのはだった。
その後を追うようにコック、ナミ、チョッパー、ルフィが船を降り
おれも武器屋を見に、重たい腰を上げ船を降りた。

町は島の外観とは打って変わって活気に溢れていて
色んな人種が人間が、往来を歩いていた。

町を適当に歩いていると、なぜか外れの方に来ていて、来た道を逆戻り。
相変わらずそこは人で埋め尽くされていて。


「たく……こんな所で道草食ってる暇はねェんだよ」


正直、武器屋に行って必要な物だけを調達し、あとは船で寝こけようと考えていたおれにとって、この人ごみは誤算。


「こんな中じゃあ他の奴らも見つけられねェな」


言いながら頭をがしがしと掻くと、あくびが零れた。

歩いてどれだけ経ったのか、分からなくなってきた頃
ちょうどいい具合に武器屋の看板を見つけ、おれはそこへと歩を進める。
質素な作りの割りにはいい物ばかりが揃っていて、ここの店主は相当の目利きだろうと、少しの期待感に胸が膨らんだ気がする。


「これでいくらだ?」


店内で物色した刀の手入れ道具を、レジの上に出す。
眼鏡をかけたかなり年のいった親父が、しげしげとおれの出した品物と腰に差さっている刀を見て
「いい刀を持ってるねぇ……」とだけ呟いた。


「……まともに見なくても分かるのか?」

「ああ、それが発している気とお主の気でね」


笑いながら品物を袋に入れ、おれはその皺くちゃの手に代金を落とす。


「きっとお主はいい刀使いになるじゃろうな……刀に好かれとる」

「それはどうも」


店から出ると、大分日が落ちずいぶんと涼しくなっていた。
それでも人の多さは相変わらず、むしろ増えているような気さえしてきて
まァ、どうにかなるだろう、とおれはその場から歩き出した。

その時、不意に感じた気配に視線を奪われる。
人ごみの中、なぜか惹きつけられて、おれはそっちに目をやる。


「……ありゃあ、か?」


柄の悪そうな男三人に囲まれている女は、紛れもなく自分の船のクルーで
その顔は不安の色、一色に染まっていた。


「……なして……くだ……い!」

「い……ねェか……優……するぜェ?」


距離と人ごみのせいで、あいつらの声がうまく聞こえなかったが
のあれは明らかに拒絶をしている表情で
気づけば体全体でを庇っていた。


「なんだテメェ?」

「おれ達に歯向かうつもりかァ?」

「お前みたいなヤツ一人がおれ達に勝てるはずがねえよ!」


ガハハと下品な笑い声が耳に障る。


「……ゾロ?」


後ろで不安そうなの声が聞こえた。


「すぐ終わらせる。お前は黙って見てろ」


そう言うと、は黙ってコクンと頷いた。


「おお、兄ちゃん? 痛い目に合いたくなかったらさっさと消えな!」


おれの眼前に顔を近づけた一人の男に、おれはそのまま拳を打った。


「ガハッ……!!」

「なっ……?! テメェ! 何しやがる!?」

「うるせェな」


ゴキリと握った拳を鳴らし、おれは呟く。


「テメェらなんか切る価値もねェ。コイツみたくなりなくなかったら、テメェらが消えやがれ」


ヒッと情けない声がそこに残り、男達はあっと言う間に消えていった。


「あの……ありがと」


そういえば後ろにがいたんだっけな、と今更に思い出し、後ろに振り返った。
そこには夕陽に照らされたが、ただ微笑んでいて。なぜだか、動悸が一度だけ大きく鳴った。


「あ、ああ」

「でもよくあんな人ごみの中から、私のこと見えたね?」

「あ?」

「だってかなりの距離あったでしょ? なのにあの迷子のゾロがキチンと辿り着けたなんて……」


まあ、ともかくありがとね、と笑うを見て、少しだけ体温が上がった気がしたのはなぜだろうか
行こう? と言われ、前を歩くの背を見て、守ってやりたいなんて。初めての感情を感じた。










雑踏のなかで










Title by 恋かもしれない35題