会えば憎まれ口を叩き合う。
お互いのいない所で、何をやっているかも分からない。
同じ船の上なのに、どうしてこうもうまくいかないのか。
海の色が青からオレンジになる刹那、軽く揺れた船と、恋心。
きっとアイツが見たら、柄じゃないって笑い飛ばすだけ。

本当は、思うだけで涙が出るくらい好きなのに
憎まれ口を叩かれて、卒倒しそうなくらい傷ついているけれど
私達はそうでしかコミュニケーションを取れない仲だから
そう言うレールを敷いたのは、私だ。


か?」

「……ゾロ」


彼が背後に降り立った。
影を表すよりも断然早く、私の傍に来る。
ドクドクうるさい心臓、赤くなる顔は夕陽のせいにしてしまえばきっと大丈夫。
だから、それ以上私の傍に寄らないで。

鍛錬の後の彼はいつも汗まみれ。
それを見て、普段の私ならやっぱり憎まれ口を叩くのだろうけど
今の、真っ赤で慌てている私は、そんな事できない。
今しがた、その行為を反省していたんだから。


「……珍しいな。お前が黙ってるの」

「私だって……静かな時くらい、あるし……」


涙声で、そう反論すればそれに反応しない彼じゃない。
「どうした?」って言いながら、顔を覗き込む。
やだやだやだ。お願いだからそれ以上近づかないで。
私の弱さや涙を、見ないでよ。


「……いや! 見ないで!」

「ああ? 人が心配してっるっつーのに……」


怪訝そうな顔をされても、顔を上げられない。
すると、頭上から呆れたようなため息。
それに後押しされる形で、あたしの瞳は潤んでそして涙が零れ出す。


「ゾロの馬鹿! 馬鹿マリモっ!」

「はァ?! っておい?!」


鈍感で、ニブチンな君は一生私の涙の理由に戸惑っていればいい。
それから、素直になれない私も、きっと素直になれなかった事を後悔する。
悪循環、悪影響。全てはこれも自分がした恋のせい。

こんな辛い気持ち、こんな事になるなら恋なんて


「したくなかったよぉ……!」


蜜柑畑の奥で一人、膝を抱えて泣いている私はまるで子どもだ。
小さくて、弱くて、自分の気持ちさえもコントロールできないような、そんなちっぽけな存在。

本当は夜も寝れないほど、ゾロのことが大好きで
だって瞼を閉じて寝ようとしても、いっつも思い浮かぶのはゾロの顔。
笑ってたり、怒ってたり、寝ていたり。
色んな顔のゾロが、寝かせないようにするから
朝、目の下は隈だらけだった。





肩が大きく震える。どうしよう、もう後ろに下がれない。
恐る恐る顔を上げれば、やっぱりそこにいるのはゾロで
さっきの格好のまま、もう少し汗をかいたゾロがそこに立っていた。


「どうして……どうして追いかけてくんのよぉ……」

「好きな女が泣いてるんだ。なんで追いかけちゃいけねェんだよ」

「え……」


グシュグシュしている私に届いた、なんともサプライズな言葉。
信じられなくて、今の自分の顔の状態を忘れてゾロの顔を凝視した。
そしたらゾロは、笑いもしないで
まるで闘ってる時のような、真面目な表情で私の前に跪いて
小さくなった体を包み込むように、抱き締めた。

固まる体。
ゾロの体は温かかった。


「好きな奴ほど虐めたくなるんだよ。分かるか?」

「……分かんないよ……」

「言うと思った」


いつもだったら反撃の言葉を返すくせに、その時のゾロはクックッと喉の奥で笑っていて。
悔しかったけどそれよりも、もっともっとゾロの言葉が嬉しかったから。
その時だけ大目に見てあげた。


「言っとくけどな……一晩中眠れなかったのはお前だけじゃないんだぜ……?」










Image song「恋は眠らない」by Tommy february6