※サンジの性格が若干捻くれています。それでも構わないという方のみ、お読みください。










おれのせいで傷ついて欲しいと思うのは、エゴなんだろうか


船の上は、ちゃんやルフィ達の笑い声が溢れている。
一番新しく仲間になったちゃんは、どうやらおれに対して仲間とは違った意識を持っているらしい。
これは自意識過剰なんかじゃなく、ナミさんからの情報によるものだ。


「毎晩お悩み相談よ。やっぱりサンジ君みたいな経験者に、私はダメだよなー、とか気づいてくれないのかー、とか」


口調はうんざりしているのに、なぜかその表情はにこやかだったのを鮮明に覚えている。
確かにフェミニストであるおれは、そこらへんの男共よりは経験豊富だ。
かといって経験のないレディを敬遠するわけでもない。
むしろ手取り足取り教え込みたいくらいだ。


「サンジ君! ごちそう様でした!」


ちゃんは毎日おやつの皿をわざわざ下げに来る。
これもナミさん曰く、おれに会いたいからだそうだ。

そうやって健気な態度で、おれに接してきてくれるちゃんを
時々無性に虐めたくなる。


「いやァ、毎回ちゃんだけだよ」

「へ? 何が?」

「こうやってわざわざ皿を持って来てくれるのは。……もしかしておれに会いに来てくれてるとか?」


わざと真面目な表情、真面目な口調で言った。
ポカンと口を開け、ただジーッとおれの顔を見ている。
その顔が途端にホニャッとふやけ、彼女はニコニコとこう言い放った。


「きっとそうなんじゃないかな? ほとんど無意識、というか日課みたいになってるし」


顔が赤くなったり、慌てたりという様子はない。
イマイチ面白味に欠けるな、と心の中で悪態をつく。


「じゃあ、まだルフィ達と遊んでる途中だからもう行くね!」


そうペコリと頭を下げ、彼女はラウンジから出て行った。


「なんだ? 意外とあっさりとかわすもんだな」


今まで恋愛面で思い通りにいかなかった事はほとんどなく
特に恋愛初心者の子はほぼ100%の確立で、面白いように予想通りの反応をしてくれた。
なのに


「どうしてちゃんは普通にかわすんだ?」


それからおれはアレコレ色んな手を使い、ちゃんの反応を窺っていった。

ある時は必要以上にボディタッチを (クソ剣士に変態と罵られた)
またある時はちゃんのみ、特別デザートを作ってみたり
はたまた、わざとちゃんの前でナミさんやロビンちゃんと談笑してみたり。

しかし、どの方法も効果は皆無で
ちゃんはただニコニコと笑ってルフィ達と遊んでいるだけだった。


なんでだ、なんであんなに平然としていられるんだ?


おれのちゃんへの感情はいつの間に虐めたいから、傷つけたいに変化していた。


もっと、おれだけを見るよう
他の男なんかにかまけないように
ただおれに傷ついて欲しかった。


そのチャンスはいとも簡単に舞い降りる。


「じゃあ、今日不眠番だから行ってくる」


そう言って夜の談笑を抜け、ちゃんは一人マストへと消えていった。


「確かそろそろ冬島だから……寒くなるんじゃないかしら?」

「え、そうなの? じゃあ悪いんだけどサンジ君」

「はい、何でしょうか?」

「あの子に何か温かいものでも持っていってくれない?」

「ええ、構わないですよ」


じゃあよろしくね、と残しナミさんとロビンちゃんは女部屋へと向っていって。
おれは早速夜食の準備に取り掛かる。


片手に夜食、もう片手には厚手の毛布を
そして頭の中にはあるプランがあった。
おれに傷ついてもらうための最終手段。


ちゃん? 様子はどう?」

「あ、サンジ君。別に変った事はないよ」


月明かりに照らされて、ちゃんは前を向いたまま返事をした。


「夜食を持ってきたんだけど、食べるかい?」

「本当に? わー、わざわざありがとう」


そう言って振り向いた彼女の肩を、おれはそのまま床に押しつけた。


「……サンジ君?」


訳の分からないという表情でおれを見上げるちゃん。
その白い首筋に顔を近づけ、おれは呟く。


「このまま……おれの好きにしてもいい?」


そう言って軽く首筋に口づけた
ピクンと肩が反応し、おれはチラリとちゃんの表情を窺う。
息を呑んだのはおれの方だった。


「サンジ君になら……何されてもいいよ?」


そこには普段の無邪気なちゃんではなく
妖艶に微笑む一人の女性がいた。

そこでようやく気がつく。
傷つけようと必死になっていたおれは、いつの間にかちゃんにハマっていた事を。
しかもそれは全てちゃんの策略であろう事も。


「ねえ……」

「ん?」

「こうなる事、分かっててあんな態度取ってたの?」


言えば笑ってちゃんは「うん」とだけ笑っていた。
でも結構、ナミ達と仲よくしてるのは大分痛かったな、と余裕の表情で呟いた。

クスクスと笑い声が漏れる中、月明かりに照らされておれ達は、初めての口づけを交わした。