太陽の光と、その光を受けて輝く海面の光が直接目を刺激する。
青い空に吸い込まれていく、自分の吐き出した紫煙が
まるで、あの人みたいに見えた。

レディに優しくがモットーのおれは、それなりに恋愛経験もある訳で
正直な話、この船の男の中では群を抜いていると思う。
だから、今の自分に戸惑っている訳だ。

目の前でナミさんとロビンちゃんと、仲よく談話している
彼女はおれが、この船で好きになった人。
そして、現在おれの恋人でもある。

以前だったら、付き合いに至るまでも、その後もいつだって余裕でいられたのに。
彼女の前だとどうしても、余裕がなくなる。
無駄な嫉妬も、きっと嫌がられるだろう束縛も全部、彼女が初めて。

それでも、妙なプライドのお陰で彼女の前でそれをさらけ出す事は、まだしていない。
もしかしたら、他の奴らには気づかれているのかもしれないけれど
きっと、まだ自身には気づかれていない筈。

ラウンジから見える、パラソルの下。
三人が楽しそうに、おれの作った飲み物を傾けながら話をしていて
それをおれはいつだって遠くから眺めているだけ。
あの輪の中に入ったら最後、きっとおれは彼女達にすら嫉妬してしまいそうで。

いつだって、おればっかりがを想っているようで
おれは何度もに好きだと伝えるけれども
彼女から好きだと言われる事は、とても少なくて。

日々募っていく想いと、嫉妬心に今にも押し潰されそうなんだ。
そんなおれを知ったら彼女は、おれから離れていくのだろうか。

「情けねェな」と誰に言う訳でもなく、一人ごちて呟いて
前髪をグシャリと、意味もなく掴んだ。

不意に、誰かが動くのが見えて
動いたのはゾロ。その足の向う先にいたのは

アイツは、何の気なしに彼女の頭を撫でる。
少し怒った顔で彼女は、何かを言う。きっと、髪型が崩れた! と文句を言っているんだろう。
その後、そう本当にごく自然にが、笑った。


「え、サンジっ?!」


気づけばおれは、彼女の細い腕を握って立ち上がらせていた。
他の面々が、何事かとおれとを見ている。
これ以上、誰もコイツを見るんじゃねェよ。
驚いたまま、おれを見上げるを力任せに引っ張る。
ラウンジに彼女を押し入れて、おれは後ろ手で鍵を閉めた。
外の方で、誰かの怒鳴り声が聞こえる。


「ど、したの……?」


何も知らない顔で、当たり前だけれども怯えた目でおれを見上げる
きっと今のおれは無表情で、彼女を見下ろしているんだろう。

一歩近づくと、彼女の体が強張ったのがすぐに分かった。
その事がおれの中の何かを、ドサリと切り落として。

何の前触れも、ムードも何もかもを無視しておれは彼女の唇に噛みついた。
胸の間に入れられた、細い両腕がおれの胸元を激しく叩く。
それでもお構いなしに、無理矢理唇を抉じ開けて、おれはの口内を犯し続けた。

背中を反らせて、テーブルの上に押し倒す。
昼間からの、そして明るい場所での行為を嫌がるはもちろん抵抗する。
それすらも力任せにおれは封じて。唇を離すと、唾液と涙に濡れているの顔が見えた。


「っ、ど……し、て……」

「黙ってて」

「やだよ……こんな」

「嫌がったら痛くするよ?」


の泣き顔も、嫌がる声も見えない聞こえないフリをしておれは首筋に口づける。
触れる彼女の髪。耳に届いたのは、小さな悲鳴で

この細い体も、今流れている涙も、吐く息も、髪の毛の一本さえもはおれのものなんだ。
いっそどこかに閉じ込めて、本当におれだけのものにしてしまえば
もう誰にも笑顔を振り撒く事も、誰かに取られる事もないのだろうか。


「サ、ンジっ……!」


一際大きく聞こえた声が、おれを止める。
その声がまるでおれを責めているのではなく、慰めているように聞こえたから。

そっと、彼女の体から離れる。
の顔をまともに見れなくて、そのまま俯いていた。


は、おれのこと本当に好きなのかい?」

「え?」

「おれはいつだって、自分の気持ちをに言うけれど……は何も言ってくれないだろ」


クソ情けない自分の姿が、瞼の裏に浮んではの、泣いている顔が代わる代わる浮んできて


「好き過ぎて、おかしくなりそうだ……いっその事、嫌いになれたら……」


言葉を吐き出せなくなっていた。
目の前に、瞼を下ろしているの顔があって
その瞼の端には涙が光っている。


「そんな悲しい事、嘘でも言わないでよっ……」

?」

「私だって、ナミやロビンにすごく嫉妬するし、サンジのこと誰にも見せたくないくらい、好きなんだから!」


泣きながら、おれに抱きつくが震えていて
小さく小さく「ごめんね」と言ったのが聞こえた。


「私が好きなのは、この先もずっとサンジだけだよ」


そう言っては、おれの首に腕を回す。
不安定な彼女をおれはようやく抱き締める事ができて
体温に、聞こえる泣き声に安堵感を覚えた。


だけが、好きなんだ」

「うん」

「愛してんだ、のこと」

「私も、サンジだけだよ」


全体重をかけてくれる、そのの重みを確かに感じて
もしかしたらおれは、泣いていたのかもしれない。

好きだよ、と小さく呟いたの声が聞こえた。










君をキライになれたら