大学に入ってから、初めての文化祭。
私の隣には、恋人であるサンジがいてくれて。
特にサークルにも入っていない私達は、気ままにお祭を楽しむ事にした。

活気のある出店や、サークルやゼミの発表、展示。
今まで体験してきた文化祭とは、また一味違って。
何より隣にいるのが、大好きな人だからか、何を見ても楽しくて輝いている。
ただ、道を歩くだけで、うきうきしてしまう。


「楽しそうな顔してるね」

「うん、すっごく楽しい!」

ちゃんが楽しいなら、おれも楽しいよ」


サンジはそう言って、優しく頭を撫でてくれる。
照れ臭いけれど、私だけの特権だから、やっぱり嬉しい。

出店でわたあめやチョコバナナを買う。
ふたりで分け合って食べるから、普通の物よりもっとおいしく感じる。

自分の所属するゼミの展示を見て、どれが私が書いた物か説明したりして
真面目に見て、色々と質問してくれるから、なんだかちょっと得意げになったりした。

次は何を見ようか、なんて相談しながら歩いていると
前からオレンジ色の髪の女の子がやって来た。
その子を見ると、サンジの目がハートになって、あっという間に彼女の前に飛び出した。


「ナミすわァん! 奇遇ですね!」

「あら、サンジ君」


見た事のない女の子は、サンジと親しげに話し出す。
どうやら同じ学科で、同じ授業を取っている子のようで。

なんだか、あまり面白くない。

柱によりかかって、ついついジト目で二人を見てしまう。
サンジは私の視線に気がつかないし、ナミ、と呼ばれた彼女もそうだ。

彼が少し女の子に弱い事は、付き合う前に言われていたから知っていたし、今までもこういう事は何度かあった。
でも、今日は少し特別だと思ってた。
普段とは違う学内で、さっきまでふたりだけの時間だったのに。

どうせ、私がいなくなったところで、気づかないだろう。
そう思って、つまらなくなった私は、その場をひとりで去った。


広い学内、わいわいと賑わっているのに、私だけ暗い浮かない顔をしている。
もちろん、原因はサンジだ。でも、サンジだけじゃなくて、自分のせいでもある。

サンジの性格を知っていて、付き合う事を了承したのは私自身で
辛い思いをしても、傍にいたいと思った筈なのに。
どうして、こうも我慢できないんだろう。
いつか、愛想を尽かされて捨てられてしまうんだろうか。

負の感情は、連なってどんどん湧いてくる。
嫌な想像は尽きる事がなくて、他の女の子の肩に手を回すサンジが、脳裏を過った。
不意に、熱くなる目頭。


「もう、やだなぁ……」


袖でごしごしと拭うと、少しヒリヒリとした。



「あれえ、彼女一人? 泣いちゃってる?」


妙にハイテンションな声で、後ろから声をかけられる。
つい振り返ってしまって、やばい、と思った時にはもう遅かった。

明らかに、浮ついたような男の人が、私を見下ろしていた。
きっと、多分ナンパだ。
さっきまでは隣にサンジがいたからされなかったけど、こんな日はこういう人が多いのだ。迂闊だった。


「どうせなら俺と一緒に、どっか遊びに行かない?」

「い、いえ……人と回っていたので……」

「えーそいつ今いないじゃーん。大丈夫だってー」


さっと肩に手を回されて、強引に連れて行かれそうになる。
これは、本格的にやばい。
振りほどこうにも、人ごみと男の人の力で、それもできなくて
情けない、そんな事を思った瞬間だった。


「そのレディから手を離しやがれ、このクソ野郎」


目の前に、いる筈のないサンジが立っていた。
それも、ものすごく怒っている。

男の人は、サンジの迫力に負けて、そそくさと私の肩を離してどこかへと行ってしまった。
私はと言うと、何も悪い事をしていないのに、なんだか怒られている気分で、俯いてしまう。


ちゃん」

「ん……」

「本当にごめん!」

「え……?」


顔を上げれば、頭を下げているサンジがいた。


「文化祭楽しんでたのに、台無しにしてごめんな」

「え、あ、うん……私も勝手にいなくなって、ごめんなさい」

「怒ってねェの?」

「怒ってたけど、謝ってくれたし……それに、さっき助けてくれたでしょ?」

「それは……! おれの大切な彼女なんだから、当たり前だろ?」


大切な彼女。その言葉だけで、どれだけ救われただろう。
気がつけば、彼の細い腰に抱き着いていた。


ちゃん……?」

「サンジ、大好きだよ」

「ええ?!」


まだまだ文化祭は続く。
もっと、ふたりで楽しもうね。









二人で回った文化祭










Title by 瑠璃 「春夏秋冬の恋20題 秋の恋」