彼の生きがいは、料理と女の人。
そんなの出逢ってすぐに分かった事。
最初は、ただの軽い男としか見てなかった筈なのに。
料理をしている時の、至極楽しそうな顔とか
闘っている時の、怖いくらいに真剣な表情
何よりも、戦闘中守ってくれた時の、抱き締められた、あの感覚。


ちゃんは、俺の大事なお姫様なんだ。傷一つ、つけさせやしないよ」


誰にでも、言うなんて事分かってる。
分かってるけれど、言われたあの瞬間
抱き締められた腕から、体に熱が広がるのを感じてしまったからには
もう、この感情から逃れられないと思った。

海風に揺られながら読書をしていた。
さっきまで目の前を、ルフィ達が駆け回っていたけど
おやつの時間になったのか、今はシン、としている。

カモメの鳴く声と、足音が耳に届いて
その方向に振り向けば、スーツを着こなしているサンジがいた。
黒いスーツの上に、ピンク色のドスコイパンダのエプロン。
いつだったから、ある島に立ち寄った時に、麗しいマダムに貰ったエプロンなんだとか。
その事を思い出して、態度がそっけなくなる。


「どうしたの?」

「おやつの時間だよ、ちゃん」

「今いいところだから、後で行くよ」


大して面白くもない、分厚い本を持ち上げてみた。
可愛くない、なんて自分で分かってるけれど
これが精一杯の感情表現。
我ながらガキくさい。


「そう言うと思って、持ってきたんだ」


サンジは言いながら、目の前に座った。
テキパキと、どこに隠していたのか大きなバスケットから
ティーセットと、フルーツのたくさん乗ったタルトを出す。
しかも、なぜか二つずつ


「今日は一人二つなの?」

「いや、これは俺とちゃんの分」


もちろん、おかわりもあるよ、と微笑みながらサンジは言う
子どもみたいに笑う顔も好きだけど
こうした、年齢以上に見える大人っぽい微笑には
心臓が壊れそうなくらい、ドキドキする。
分かってないでやってるから、余計に性質が悪い。

あっと言う間に、おやつの支度が整った。


「どうぞ召し上がれ」

「……いただきます」


この前寄った港で、私とサンジが買い出しだった。
その時に買ったブレンドティーが、ふわふわの白い煙を携えている。
カップを持つと、じんわりと熱が指に伝わってくる。

かちゃかちゃ、と陶器がぶつかる音が奏でられる。
さらさらと揺れる金糸が眩しくて、目を細めた。

悔しいくらい、改めて好きだと思わされる。
目の前で微笑んでくれる、サンジを見ていると。


「サンジが好きだよ」

「……急にどうしたんだい?」

「ムカつくくらい、好きだよ」


甘さの抑えられたタルトの生地に乗っている、フルーツの酸味で目が覚める気がした。
だけど、その酸味さえもタルトの戻ってきた甘さに混ざり合う。
タルトもムカつくくらい、美味しい。


「おれのお姫様は唐突だな」

「私はサンジのものかもしれないけど、サンジは私だけのものじゃないよね」

「どうしてそう思うんだい?」

「だってサンジは、女の人皆に優しいじゃん」


温くなったフォーク、サンジの指先が髪に触れた。
気づけば交わしていたのは、キス


「なに、いきなりっ」

「俺は女の人、皆に優しい。だけどね」

「……だけど?」

「キスしたい、それ以上の事もしたいって思えるのは、ちゃんだけなんだよ?」


そう言って頬に触れる手が、顎の下に行くのはあと数秒










キスがその答え










Title by 恋したくなるお題